326話 ↓る者、↑る者 02
「くおおおぉ!!アッタマきたよ!!
こりゃ、キレるね!!
ブチギレちゃったね、おいら!!」
とても興奮した子供のような、甲高い声が響き渡った。
「おまえ一体、何様のつもり!?
自慢じゃないけど、おいら、相当『ありがたい悪魔』なんだぞ!?
ただの一度だって、召喚者を満足させられなかったことがないし!!
『Sweet Devil』の年間ランキングで5年連続、3位だぞ───ええッ!?
5年連続だぞ!?」
起立した姿。
たしたし!、と後ろ脚を踏み鳴らして怒り狂ってるのは。
───『カワウソ』だ。
───コツメか、ユーラシアか、スマトラか分からないが。
───とにかく、見た目が完全に『カワウソ』だ。
「このおいらの、何が不満だって言うんだ!?
おまえ、ちょっと怖い顔してるからって、いい気になってるだろ!?
悪魔ナメんじゃないぞ、コラ!!」
ああ。
初っ端から、これだ。
最初の一体、ランダム召喚の一発目から、この有り様だよ!
手堅くやるなら、気心の知れたバルストを喚ぶべきだったんだが。
ギリギリで踏み止まって、ランダム召喚に切り替えた。
バルストだったら、どうなるか。
この『実技』は姿を消してはいるものの、当然ギリアム様が見ていらっしゃる。
生意気にも自分の部下を喚び付けているのを目撃されたら、評価に響く。
絶対、不合格になる。
それでなくても、『好感度が最低』だろう僕だ。
不合格だけで済めばいいが、もっとマズい展開になるかもしれない。
そういうリスクを避ける為、指名じゃなくランダムのほうに賭けたのに。
なんだよ、このカワウソは!
「待ってくれ。別に、君が気に入らない訳じゃ」
「だったら何なんだよ!?
おいらを見て開口一番、”他のを連れて来い”!?
冗談は顔だけにしとけっての!!」
「──────」
おい。
『顔ネタ』、2回目だぞ。
そっちこそ、大概にしてろよ??
腹の底に力を入れて、怒りが上がってこないよう堪える。
こういうのは絶対、タダじゃおかない僕なんだが。
今回だけは、特別。
ギリアム様が見ている、見ていらっしゃるのだ。
”はやく回転数を上げろ!”と文句を言う『マーカスエンジン』を、停止。
というか、超・低速モード。
我慢だ、マーカス!
「───君は───可愛い」
声が裏返らないよう注意しつつ、最大限に穏やかな口調で言う。
「まず、大前提として、君は可愛い。
こんな愛らしい悪魔に出会ったのは、初めてのことだよ」
シンイチローばりの、成熟した大人の対応。
状況に応じた『社交辞令』ってヤツを、前面に出してゆく。
「3位どころか、実質1位なのは間違い無いだろう。
そりゃあ、誰だって喜ぶ。
君が来てくれて満足しない召喚者なんて、いる訳がないさ」
「・・・なんだ、分かってんじゃん!」
途端、満面に笑みを浮かべて、くねくねと体を揺らすカワウソ。
現金な奴め。
そして、チョロい。
こういうのは、とにかく褒めておくに限る。
そもそも『Sweet Devil』というのが何かは、さっぱりだし。
どういうランキングで3位なのかも、分かっていないけど。
「僕は幸運だな。君が召喚に応じてくれて、本当に良かった。
これで僕の『願い』が叶うのは、確実となったよ」
「でも、さっきさぁ。
”他の誰かを連れてこい”、って言ったじゃん?」
「いや、それは交代してくれ、という意味じゃあない。
君には、ここに居た上で更に誰かを。
友達とかを連れて来て欲しいんだ」
シンが憑依したかのように、優しく丁寧に説明。
つまり、いつもの真反対。
ホント、何処からこんな声出してんだ、僕は?
全身に蕁麻疹が吹き出るぞ。
「ええと、何・・・友達を呼ぶ??
それが『願い』なの??」
「そうさ。
ただし───『召喚』で喚んでほしい」
「・・・はあ??
連絡したら、普通に来てくれると思うけど?」
「そこを敢えて、『召喚陣』で頼みたいんだ。
そして。
来てくれた友達にも、君と同じ事をしてくれるよう、お願いしてもらいたい」
「何処に描くのさ、その『召喚陣』」
「君が今いる『召喚陣』の中に」
「おいらが、自分で描くのかい??」
「そう」
「ふーーん。だからこの陣、やたらと大きいのかー。
こんなヘンテコな契約、初めてだなぁ・・・でも、ちょっと面白そう!
あ、おいらの名前は、プーキィさ!」
「僕は、マーカスだ。
それじゃあ、プーキィ───頼むよ」
「よしきたっ!
おいらの一番の仲良しを喚んでやるよ!」
さてと。
ここからどうなるか、だ。
次の段階こそが、この『発表』の核心。
嬉し恥ずかし、挑戦的な部分。
───僕の考案した、《トモダチ無限陣》。
───初披露かつ完全に、出たとこ勝負である。




