325話 ↓る者、↑る者 01
【↓る者、↑る者】
───72点。
5割を超え、6割を突破し、7割さえ突き抜け。
しかし、特に優秀であるとも評価されない数字。
微妙と言えば微妙な、”へぇ、そう”、の一言で終わってしまう数字。
けれども。
決して無価値な点数ではない。
《72点》というのはこう見えて、大したヤツだ。
かなりの汎用性がある。
教育課程における点数なら、間違いなく合格だ。
それも、格好悪いギリギリのラインじゃなく、ちょっと余裕のある感じ。
周囲から”コイツ馬鹿だろ”、と思われない程度には。
資格試験でも、大概はイケるだろう。
倍率が10倍だとか、9割取れないと不合格とか決まってる、上級資格以外。
”ちゃんと勉強したんだな”、と納得してもらえるくらいには。
───72点。
実際、僕は《合格》したさ。
ギリアム様が出題された、『中間テスト』に。
あの分厚い召喚術の魔導書。
記述された言語からして普通ではなく、理解は困難を極めたが。
任務と任務のスキマ時間、睡眠を削ってまで頑張った甲斐はあった。
僕は決して、努力が不必要な『天才』じゃあない。
『人より努力出来る才能』がある訳でもない。
そこを何とかしてくれたのが、『7割レゲェメンズ』。
彼等によるサポートだ。
あいつら、『笑顔溢れる、鬼のような』指導だったよ。
足し算と引き算しか知らない子供に、微分積分を教えるようなもんだし。
そりゃあ、鬼にもなるってもんだよ。
だがまあ、何とか《合格》だ。
持つべきものは、友。
ピザとラムコークの代金を差し引いても、かなり世話になったな。
むしろ余計に取った2点分が、申し訳ないくらいだ。
───けれど、これで終わりじゃあない。
───『筆記』は合格したが、まだ『実技』が残っている。
しかもこれ、ただ召喚の技術を見ていただく、では済まない。
”召喚術の理論を応用した実践的手法を実演せよ”、だ。
この特に難しい言葉を含まない課題は、事前に出されていたんだが。
こっちのほうに取り組む時間は、殆ど無かった。
というか、ひどいだろ、これ。
どうとでも解釈出来るテーマだが、普通に挑んでも評価しないぞ、みたいな。
相当に革新的な事をやらないとバッサリ斬り捨てられる気配、プンプンだよ。
『実技』というより、ほぼ『研究発表』だよなぁ。
加えて、ギリアム様がお優しい御方でないのは、これまでの経験で確定だ。
───うぐぐ。
───胃がキリキリと痛む。
逃げてしまいたいが、それは物理的に不可能。
すでに僕は、地球上の何処でもないような《実技試験会場》に飛ばされている。
出口らしきドアとか、見当たらないし。
この土壇場で”ちょっとトイレ”、なんて口に出せる勇気も無く。
───もう、やるしかないのか。
ここ3日でなんとなく、頭の中だけでシミュレーションした、『アレ』を。
ぶっつけ本番で。




