323話 Think about her. 05
悪魔の強さを表わす指標として、《位階》と呼ばれるものがある。
一番下を108位とし、一番上が1位。
奴等が『陛下』と呼ぶ存在を除いた、とても分かり易いランク付けだ。
有象無象の下っ端と違って、ここに入る者は明確に強者であり。
家柄や財力ではなく、周囲を黙らせるだけの本当の実力を持っている。
天使側からすれば、次回の大戦までに少しでも削っておきたい存在。
けれども休戦中の間には、単独で関わりたくない相手だ。
加えて、《位階持ち》に関しては留意すべき重要な点がある。
それは。
奴等同士の強さを、単純に数字の大小で比較するのは危険だという事。
100番台などはそもそも僅差であり、熾烈な争いだ。
何とかして《位階》に食い込もうと、下から狙ってくる者も多い。
明日には大幅にランキングが変わっていようと、おかしくない。
一瞬で消えて二度と名を聞かなくなる、そんなのも日常茶飯事だ。
これが80番台あたりになると、状況が大きく異なる。
1つ数字が違えば、力の差がはっきりと違ってくる。
戦略無しの運試しでは通用しないレベル。
自分が強くなることと同時に、相手の弱体化も狙わねば上には行けない。
戦い慣れした古強者が多く、前線に出て来られると厄介な連中だ。
50番台ともなれば、1つ先にいる者が自分の実力の2倍近くになる。
もはや『地力』の差があり過ぎて、まともに勝負出来ない。
騙し討ちや奇襲でさえ、何の効果も見込めない。
ほぼ争いは起こらないし、ここに変動があれば大ニュースとなる程だ。
そして、20番台より上。
ここからはもう、全く動きが無い。
上位者に挑む事は即、死を意味する。
赤子の手を捻るより容易く、括り殺される。
よって、ここに居る者は皆、保身に努める。
自分の数字を守る事だけに専念する。
当然、順位は微動だにしない。
動かす事が出来ないし、動かすべきでもない、と誰もが知っている。
何故なら。
すぐ上に、『蓋』がされているのだ。
───『壁』どころではない、絶対的で恐怖に満ちた『蓋』が。
───《四家》という名を冠した、触れてはならぬ者達によって。
名称が表わす通り、位階の1番から4番に鎮座する《四家》。
『陛下』と呼ばれる者の血に連なる、原初の存在達。
他の連中とは、悪魔として生きてきた年季が違う。
領地に蓄えた魔力量の、桁が違う。
一度殺されたくらいでは死なない、バケモノ中のバケモノだ。
こいつらと闘り合えるのは、最高位の天使のみ。
それも、勝率を5割より上げたいなら、『第一種聖典』の装備を。
いや、『神器』を持ち出さないと駄目だ。
可能であるなら、複数。
正直ここまでくると、わたしにはファンタジーの領域だ。
規格外過ぎて、少しも現実味が湧かない。
戦うなら勝手にやってくれ、としか思えない。
───だが。
この決して開かない筈の、開けてはならない『蓋』を突き抜け。
《四家》の一角を叩き落とした者。
それが、《炎狼》。
メイエル・ディエ・ブランフォールだ。
5位であった《炎狼》が何故、1つ飛ばして3位に挑んだのか。
理由は不明だが、勝利したことは事実。
評議会からも、正式に認定されている。
殺される寸前で敗北を認めた3位は、5位へと陥落し。
《炎狼》が新たに3位の座につき。
ただし、本来なら『総取り』である領地や魔力は奪わなかったようだ。
即ち、順位は入れ替わっても、全体としての均衡には影響無し。
《炎狼》はその後、地上へ出てウェールズへ身を置く。
まるで、”もう目的は果たした”。
そう言わんばかりに。




