322話 Think about her. 04
私情を挟まず、事実のみで語るならば。
───《人間》は、自動出荷の複製生物である。
『大いなる神』が見放した、失敗作。
それを我々が懇願し、尚も地上で活動させている《実験体》。
とうの昔に原型が失われ、復元する術は無い。
生きて、死んで、『大霊書庫』に戻り、また出荷され。
ただそれを延々と繰り返しているだけの。
しかし、我々にとっては重要な《実験生物》だ。
64箇所の『傷口』が縫合されるのも、大霊書庫での自動作業。
変更や調整を行う権限は、『神』から渡されていない。
出荷直前の検品は可能だが、”どこまでを見過ごすか”、が非常に難しい。
縫合処置は、完璧ではない。
そして、開いてしまった『傷口』は、《人間》の資質に多大な影響を及ぼす。
良いほうにも、悪いほうにもだ。
開いた箇所によっては、”天才”と讃えられ。
また別の箇所ならば、”異能者”と呼ばれる個体になるだろう。
6番などは、『人間であることに耐えられなくなる』。
そして、自死すら選択出来ない。
この部分は出荷後、後天的に開いてしまうことで有名だ。
ドラマの主人公、グランツなどは正に、これだろう。
『ニンゲン病』の対極ともいうべき症状である。
───《人間》は、あまりに不完全だ。
全ての『傷口』が塞がっていてさえ、不安定。
地上の生物の中でも、群を抜いて”恐怖への耐性が低い”。
これこそが神に放棄された原因であり、最も致命的な弱点だ。
彼等は、見えないものを怖れる。
見えていないのに、恐怖する。
《人間》の怖がりっぷりは、我々の初期想定を遥かに凌駕し。
そのあまりに激しい感情は、意図せず世界の在り方を捻じ曲げた。
結果、発生したのが、伝来の妖族。
本来は存在しなかった筈の、イレギュラー達である。
夜の闇に、暗い森の中に、居るかもしれないモノ。
居てくれなければ、説明がつかないモノ。
居てほしいという、願望。
居てほしくないという、拒絶。
それらの《集合想念》が、伝来の妖族を生み出す切っ掛けとなり。
悪夢は形を持って、現実となる。
現実になって、目に見えるようになってようやく、《人間》は安心するのだ。
───現時点での《悪魔レンダリア》の発生確率は、三割を切っている。
───大体のところ、26%から28%辺りを推移している状況である。
数字としては少ないが、かなり危険だ。
”科学で証明出来ぬものは全て詐欺”な現代で、これは凄まじい異常値だ。
空前のヒット作となったドラマがもたらした、社会現象。
招かれざる副作用だ。
《悪魔レンダリア》が本当に出現したら、どうなるか。
我々にとって、それ自体は何の脅威でもない。
そう断言出来るのは、ドラマの『設定』のおかげである。
彼女は『設定』における性格によって、本物の悪魔達と手を結ぶことはない。
敵対する可能性なら、あるだろうが。
よって、無害。
彼女は、《人間》を食らうだろう。
『設定』に従い、己を喚んだ者を甚振りながら、少しずつ。
その被害者数は、年間で10人に満たない程度と推測される。
よって、無害。
我々天使からすれば、《悪魔レンダリア》は居ても居なくてもいい。
予想される損害が無いのだから、どうなっても構わない。
無視していい。
───その無害な《悪魔レンダリア》を、どう有益に使うか。
今、わたしが提唱している1つは。
彼女にメイエル・ディエ・ブランフォールを殺させる、というプランだ。




