321話 Think about her. 03
「それにしても、レンダリア様の『絶叫』、凄かったねー」
「目を閉じたままで、あの迫真の表情。震えましたねー」
「ああ、確かにな。
あれは胸に響くものがあった。
そこに至るまでの課程を想像すると、一入だな」
「??」
「課程、と言いますと?」
「レンダリア様は、殺されたジュリアの姿に化けた訳だが。
そもそも何故、ジュリアの死に気付くというか、そこへ居合わせたのか」
「んんーー。偶然・・・じゃあなさそうですね」
「師匠は、さほど高名な人物でもないし。
グランツもその時点では、正式な『祓い屋』ではないし。
過去の恨み、とかの線は無さそうですね。
いったい何の目的で・・・」
「───もしかして、だが。
昔からグランツに対して、好意を持っていたんじゃないのか?」
「!!」
「!!」
「何となく”いいなぁ”、と思いつつ、少し離れた所から眺めていて。
ジュリアが師匠に殺害されるのを目撃して。
だが、”お前の彼女は死んだから、次は私!”、と急に現れる勇気は無く。
悩んだ末、ジュリアと同じ姿をとることで妥協して」
「突然レンダリア様が、乙女に!?」
「ここへ来てまさかの、『萌え』が!?」
「好きな男の為に洗濯して、掃除して、料理を作って、帰りを待ち。
一緒に食べて。
会話して。
肌を重ねて。
───けれどもその男は、正体に気付いていながら。
───怨恨ではなく自分を助ける為に、退魔士達を殺すまでしておいて。
なのに、最後の最後。
息を引き取る瞬間さえ、本当の名を呼んでくれなかった。
それは、『女』としてどうなのだ?」
「・・・うう・・・」
「叫びたくも、なりますね・・・」
「途中、レンダリア様が《回復》の呪符を燃やしていたが。
あれもプライドゆえ、というより、好きな男を思っての行為じゃないか?
そんな事をするより、1秒でも長く生きていてほしくて」
「・・・ぐはぁ」
「ちょっと・・・泣けてきた・・・」
「───正直、命を取り留めたところでグランツは、もう駄目だろう」
「ここ最近、まずいレベルで病んでますよね、彼」
「『祓い屋』として動いていない時が、かなり危うい感じですね。
レンダリア様が仰るところの、『人間のふり』ができていない、という」
「それに、良く良く考えてみるとだな。
グランツが悪魔を祓うことで幸せになった人間は、1人もいない」
「え?」
「え?」
「悪魔を喚ばねばならぬ程の強い『願い』は、叶わなかった。
それを可能とする存在が、彼に祓われてしまった故に。
その後、召喚を試みた者がどうなったかは、作中で触れられていないが。
何も無かったように笑顔で暮らしているとは、想像出来ないな。
結局のところ、現時点までを振り返れば。
確実に救われたと言えるのは、レンダリア様に食べられた人間だけだろう」
「あー・・・少なくとも、『願い』は叶ったから?」
「それを『幸せ』と呼ばなきゃいけない、壮絶なストーリー・・・」
「───ここから何とかして、全部引っ繰り返してくれないだろうか?
ピーターソンが」
「・・・そうですね・・・」
「ピーターソン・・・頑張れ・・・」
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談話室の清掃を済ませ、自室に戻る。
───時刻は22:43。
本日の共用部消灯は些か遅れたが、問題は無い。
ここには小言を言うような、お偉い役職者はいないのだ。
寮に於ける最高権力者は、地上勤務者の生活を指導する『寮長』。
そして、その任に就いているのは、わたしであり。
即ち、わたしこそが『法』。
長く地上勤務をやっているのだから、これくらいは許されるべき。
ドラマの内容が、今も頭の中でぐるぐると廻っている。
レンダリア様がどうなるか───というのは、確かに心配なのだが。
実のところ、わたしなりの予想は、すでにできている。
状況的には、かなり厳しい。
まさに絶体絶命と言えるだろう。
しかし、あれを『ドラマ内の出来事』ではなく、『現実』として考えれば。
意外にあっさりと、《答え》に行き着く。
レンダリア様が生き残れる、ただ1つの道筋に。
それを後輩達の前で言わなかったのは、外した時に恥ずかしいのと。
わたし自身は、その《答え》が好きではない、というのが理由だ。
まあこの際、レンダリア様が無事なら何でもいい、とも思いはするが。
できれば脚本家には、予想もしなかった展開で驚かせてもらいたい。
キャラクター人気だけでなく、ストーリーで名作となってほしいものだ。
さて。
あと1時間と少しで日付が変わり、連休に突入する。
二連休、三連休などという、ありきたりなものではない。
嬉しくて泣けてくるような、五連休。
それを完璧にリラックスして楽しむ為には、事前の準備が必要だ。
《抱えている仕事を、全て終わらせること》。
勿論、通常の仕事は、勤務時間内にきっちりと片付けている。
問題は、『通常ではない仕事』のほうである。
───わたしのサンフランシスコにおける地上勤務は、偽装だ。
此処に居ること自体が、ただの辻褄合わせ。
組織図上の上役も、実際には無関係。
顔を合わせる事など、一年に一度あるかどうか。
ならば、わたしは何処に属しているのかというと。
『本当の所属』に、正式な名称は無い。
つまり、存在していないことになっている。
ただ、それだと給料無しの福利厚生無しで困るから、偽装なのだ。
そして、不自然にならぬよう、偽装のほうの仕事もプラスでやらされる。
とても損な役回りである。
───おまけに、『本当の上司』が最悪だ。
ランツェには悪いが、お前の兄は本当に、最悪な男だ。
そんな奴に、何故か気に入られ。
連絡を入れる度、”手元へ戻って来い”と繰り返され。
場合によっては仲間を裏切る事さえ強要される、わたしは。
わたしもまた、『最悪の一部』である。
その素晴らしい『上司様』に提出する報告書を、仕上げてしまおう。
今夜中に。
奇しくもそれは、先程観たドラマにも関係している。
───《悪魔レンダリアの有用性と、その処分》。
ただしこれは、ドラマのキャラクターであるレンダリアではなく。
マレーシアにて確認されている、同名の悪魔でもなく。
これから生まれてくる───かもしれないモノ。
伝来の妖族の、《悪魔レンダリア》。
彼女への対策案だ。




