320話 Think about her. 02
エンディングテーマに乗せ、クレジットが流れるTV画面。
それは始まってすぐに、ブツ、とブラックアウトした。
「───次回予告は、駄目だ───見てはいけない」
ソファの右端に座った天使がリモコンを置きながら、硬い声で言う。
その横の2名も緊張の解けぬ顔で頷き、同意する。
「確かに、今回ばかりは」
「楽しみが無くなるというか・・・見るのが怖い、というか」
そう言いながら、ちらちらと右端にいる天使の表情を窺う。
ぶるぶると震え、明らかに臨界点を迎えようとしている姿を見て。
僅かに腰を浮かし、もぞりと距離を空けたところで。
「どうなるんだ、これはッ!!
一体、どうやってこの決着を付けるつもりなんだッ!?」
「ちょっ!声大きいですって!」
「はぁ・・・やっぱり、こうなっちゃうかー」
「レンダリア様が死ぬとか、負けるとか嫌だぞッ!?
絶対にそんなのは、認めないからなッ!?」
「いやいや、そう言われましても」
「まあ、気持ちは分かるんですけどねー」
「如何なる場合も、誰が相手でも!
決して屈してはならない!
謝罪するのも駄目!
レンダリア様は、わたしの『憧れの悪魔』なんだぞ!!」
「うわー。問題発言だー」
「すっかり『どハマリ』しちゃいましたよねー、寮長」
「お前達のせいだからな!?
それより、レンダリア様はどうなる!?
どうなってしまうんだ、これは!?」
「えーー・・・んーー・・・」
「かなり厳しい、としか・・・あ、寮長、消灯時間が」
「馬鹿!何を言ってるんだ!今は、非常事態だぞ!?
電気代など気にしている場合じゃないだろう!
───ええい、アイスを取ってくる!
お前達はその間に、コーヒーを淹れておけ!」
「はーい!」
「非常事態、非常事態!」
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「わあ!これ、お高いやつだー!・・・おいひぃ!」
「有り難や、有り難や!遠慮無く頂きます!」
「他の皆には内緒だからな?
───それで。
わたしのレンダリア様に関してだが!」
「いやー・・・グランツの方は、助かる見込みゼロでもないんですけどねー。
次回冒頭のレンダリア様のアクション次第で、ワンチャンあるかもだけど」
「レンダリア様自身は、相当厳しいかと。
『鎖』が切れていないし、強がってはいるけれど、ボロボロで。
その上、登場予定なのが例の、《ダスク》と《サビエント》ですよね?
同格の『始まりの血』2名を相手にするのは、ちょっと・・・」
「うううう!
誰か、誰かが助けに来る、とかはないのか!?」
「無理でしょー。
好き勝手にやって、全包囲にケンカ売ってるレンダリア様ですもん」
「というか、大体殺してますからね。誰もいませんよ」
「まだ殺されていなくて、明確に『敵』ではない、誰か!
例えば───そうだ!
ピーターソンなら、どうだ!?」
「誰でしたっけ、それ?
・・・ああ、『公式本』でしか名前が明らかにされていない、脇役かー」
「予約までして、買っちゃったんですよねー、寮長」
「お前達も同罪だろう!
ピーターソンは、実は高位の悪魔で───レンダリア様の部下で!」
「ない、ない」
「移動販売のタコス屋に、超難易度なミッションを押し付けないでください」
「そこを何とか!」
「寮長、一旦ピーターソンの事は忘れましょう」
「ここはまず、今回の話で発覚した新情報について整理しませんか?」
「うう───『新情報』、か───。
グランツがジュリアの正体がレンダリア様だと気付いていたのは、あれだが。
わたしとしてはそれよりも、彼の師匠がジュリアを殺した、というのが」
「あー。それ、あたしもです!
てっきり、レンダリア様が殺して化けたんだと」
「普通は、そう考えますよねー」
「これに関して、何か伏線はあったか?」
「今にして思えば、回想シーンかな?
師匠が出て来て、”『祓い屋』は『欲』を持ってはならん”、とか。
”悪魔に『欲』を突かれるな”、とか言ってましたよね、何回か」
「つまり、グランツの『欲』や『執着』を断ち切る為に、殺した?
そうすると、師匠が悪魔に敗北して死んだのも、手の込んだ自殺?」
「───つくづく思うが、えげつないシナリオだな、本当に」
「まあ、それがこのドラマの売りですからねー」
「ただ、師匠が犯人だと知っても尚、『祓い屋』として戦うのは・・・。
普通はショックを受けて、そこでやめません?
しかも、律儀に形見の武器まで使って」
「グランツはイカレている、という一言で終わらせる事は可能だが。
一応は、説明出来るぞ」
「えー?」
「どういう事です?」
「”現時点までに費やしたコストは、必ず回収しなければならない”。
これは人間だけでなく、わたし達も陥りやすい、『思考の罠』だな」
「あー。
ジュリアが命を落としたのに『祓い屋』をやめたら、それが無駄になる?」
「いやいや、駄目でしょう!
そこで強引に進んでも、具体的なメリットが無いじゃないですか!」
「第三者の視点ではな。
だが、いざ自分の番になった時にそう思えないのが、これの恐ろしさだ。
お前達も将来『管理者』を目指すなら、憶えておけよ?
リスクマネジメントの集団試験で、必ず出るぞ」
「『管理者』かー」
「寮長は管理者資格、取ったんですか?」
「取得はしたが、役職付きになりたいとは思わんな。
余計な責務を負いたくない」




