30話 無限の国 09
「断る」
「────え?」
「断る、と言ったんじゃよ。全くもって、お断りだ」
「そんな!」
「あんたの言い分は、それだけを聞けば100点満点じゃ。
だが、儂は満点をくれてやらん!絶対に、やなこった!」
“マギル、障壁は?”
“組み合わせパターン・・・全滅ですね、通りません”
“んな・・・馬鹿な!”
“文句は、その馬鹿げた本人に言ってやってください。
手動で解析に入りますが、これは相当な時間がかかりますよ”
「・・・どうにも、誰かが儂の体を触っておる気がするのう!
まあ、それは放っておいて、だ────天使さんや」
「・・・はい」
「『作品』は『作者』の物。これは絶対じゃ。
しかし、責任を持つかどうかは、『作者』の自由よ!
そうする輩も、そうしない儂も、誰に咎められることも無いのう!」
「でも────」
「確かに儂は、ゼラを生み出した。イルファを生み出した。
じゃが、そこから先の出来事は、彼等自身の意思による因果よ。
ゼラが喰らった人間が何万人だろうと、儂に殺人の罪は無い。
ゼラがその絵の中で永遠を彷徨うとも、儂に監督責任は無い。
はっきり言うと、すでにその絵に興味が無い!」
「・・・・・・」
「おい、爺ぃ!大概にしてろよ!?」
「だーっとれ、若造が!!」
ばんっ!
老人が叩いたテーブルから、埃が舞い上がる。
「お前なんぞに用は無いわい。
────んん?何じゃ、その目付きは?力ずくでやってみるかね?
伊達におたくらの『指名手配』を潜り抜けてはおらんぞい?」
「こっ・・・この野郎・・・!」
“ちっくしょう!このままじゃ俺、格好悪いじゃねぇかっ!!”
“それはもう、分かっています。落ち着いてください、ボス”
“・・・・・・”
「まあ、そうは言ってもだ。
儂とて、御婦人を苛めるのが趣味などと思われては、かなわんのう」
にたあり、と。
良からぬ笑みを浮かべる老人。
「このルーベル・レイサンダー、何者の強制も受け付けんが。
ゲームの勝敗に左右される人生は、愉快この上ない!
どうじゃ、天使さんよ?」
「はい?」
「儂と、カードに興じてみんかね?
勝てば、続きの絵を書いてやろう!」
「本当ですか!?」
「待て、ランツェイラ!・・・負けた時のペナルティはどうなんだ、爺さん?」
「ええい!割り込むな、むさくるしい奴め!
天使さんが負けた場合は、その姿絵を1枚、描かせてもらおう。
それだけでいいぞ!」
「あんたのことだ、ただの絵じゃないだろう!」
「ただの絵じゃよ。約束しよう。
絵描きとして、純粋に絵を描くさね」
老人の瞳が、きらきらと輝く。
宝石のように、万華鏡のように。
そして、その眩しさに思惑が読み取れない。
「────さあさあ!始めよう!
今宵は、ギャンブラーの血が騒いでおるわ!!」




