317話 幸せの側面、幸せな側面 04
「ああ〜〜〜!!最ッ低だよ!!」
ドスン、と荒々しくソファに座り。
カールベンは伸ばした足で、壊れない程度にテーブルを蹴り、毒づいた。
「やってらんねぇ、ちくしょうッ!!」
それでも収まりがつかずに、ソファの座面に拳を打ち込む。
盛大に舞い上がった埃に顔をしかめ、その結果、更に苛立ちが加速する。
「くそッ!!」
───事の発端は、洗面台だ。
以前から蛇口の締まりが悪く、ポタポタと水滴が落ちていた。
まあ、大した量ではない。
水道代に響いたとしても多少の事さ、と長らく放っておいたのだが。
ここ最近の熱帯夜で、非常に寝付きが悪くなり。
その水滴の音が、どうにも気に障るようになってしまった。
獣狼族の聴覚は、人間の何倍も優れている。
一度気になってしまうと耳から離れず、一種の拷問だ。
───もう、我慢出来ない!
意を決し、使わないまま錆が浮き始めた工具箱を持って来て。
こんなのキュキュッと締めてやればいいんだろう、というのが浅はかな考え。
ガチャガチャとやってるうち、ボロッ、と『蛇口が取れた』。
噴出する水の勢いに、たちまち間に合わなくなる排水。
悲鳴を上げながら必死に、もう一度取り付けようと格闘。
床は水浸し。
今思えば、元栓を閉じれば済む話だったのだが。
パニックに陥った自分は、思い付きもしなかった。
弾ける水飛沫でズブ濡れになりながら、やっとの事で蛇口を付け直し。
ありったけのタオルで床を拭いていた時、妙な音がした。
霧吹きでシュシュッ、とやるような。
それをずっと、連続でやってるような。
原因は、すぐに判明した。
何せ配管剥き出しの、かなり古い平屋建てだ。
───洗面台蛇口に向かう途中部分から、水漏れしていた。
───力任せに揺すったせいで、亀裂が走ったのだ。
ビニールテープでグルグル巻きにし、その上からまたタオルを巻き。
元栓の存在を思い出したのは、事がここに至ってからである。
「・・・・・・」
深く息をつき、天井を見上げる。
どっ、と疲労が押し寄せてきた。
中途半端な姿勢で作業してたから、腰も痛い。
朝になったら、速攻で業者に連絡だ。
素人がヘタな事をするんじゃなかった。
最初っから、プロに任せるべきだったんだよ。
床はまだ濡れているが、もう気力が尽きた。
明日でいい、明日で!
このまま、寝ちまうか?
だが、興奮というか、イライラし過ぎてるな。
何処かに飲みに行くか?
(・・・でも、あんまり金無いんだよなぁ)
細々(こまごま)とした計算は面倒だから、やらないが。
ざっくりと見積もってもこの先、ざっくり足らない感じだ。
いや、どうせ足らないなら、多少使ってもいいか?
───そんな事を考えていたら、玄関のドアがノックされた。
「・・・・・・」
妙だな。
玄関先に誰かが歩いて来た音はしなかったぞ?
これって何か、ホラーなヤツか?
「居るかしら?───私よ」
こちらの名前を呼ばず、自分が誰かも名乗らない声。
ファリアちゃん!?
え??
何で、俺のところに!?




