313話 悪魔のプライド 06
「───おぬしも売れない時代は、『流し』をやっていたらしいな」
《白面の悪魔》が、唐突に言う。
「・・・だ、誰から、それをッ!?」
「そりゃあ、おぬしのファンからに決まってるだろう」
「・・・・・・」
「断られても頭を下げて。
雨の中、何軒も店を廻って。
酔客に絡まれ、グラスを投げ付けられたりもしただろう。
そんなおぬしが、アマチュアの気持ちを想像出来ぬ筈はあるまい?」
「・・・・・・」
「───《Hell Musica》」
「ッ!!」
「我輩、《トレカ》なる遊戯を多少は嗜んでいてだな。
運良く、全国大会でベスト16に食い込んだ事もある。
勿論、《Hell Musica》も使うぞ?
駆け引きの果てに、格上カードを倒す爽快感は格別だからなあ。
描かれたイラストも、実に素晴らしいじゃないか。
ええ??」
「・・・・・・」
「『悪魔』の生き様は、それぞれだろう。
様式美に則り、傲岸にふんぞり返るも良し。
気取りに気取って、伊達を押し通すも一興。
毒舌で煙に巻きながら、その裏で『聖者』の如く生きるも味わい深い。
まあ我輩としては、少し笑われるくらいで丁度良い、と思うがな」
腕組みを解いて、男は。
ニタリと『邪悪な笑み』を浮かべた。
そして。
「───だが、卑怯と卑劣はイカンなあ」
ぽん、と左肩に手を置かれた。
「ッ!!!」
「ジュンヤ・スエモリ氏から、極上の絵を頂き。
『写し身』とも言えるカードを、多くの者に称賛され。
奏でる音色に魅せられた、古くからのファンさえ居るというのに。
自分の事だけ考えて、他者を蔑ろにするような。
口先の理念を盾にして、私腹を肥やしまくるような。
そんな『悪魔』が存在するとしたら。
こればっかりは、許す事が出来んなあ。
まったくもって、出来んだろう。
流石の我輩も怒りのあまり、『怒髪が天を突く』ぞ??
ええ??」
「・・・いやッ!・・・そのッ!・・・」
ぐぐ、とアップで迫ってくる《白面》。
ちょ、待て待て待てッ!!
「なあ───ダルホーゼン・ガル・カラッド」
「ひいッ!」
『真名』で呼ばれ、思わず情け無い声が出た。
「マクツヴァの《加盟料》に関してだが。
我輩が昔払った分で、足りるか??」
「は・・・はひッ!!」
「おお!そうか、そうか!
そりゃあ良かった!
では早速、地獄に戻って仕事に励むといいぞ!
やるべき事が沢山あると思うが、体調を崩さぬよう、気を付けてな?
フハハハハ!!」
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ステッキが床を叩く音と同時に、燕尾服の姿は消え。
それから男は、くるりと振り向いた。
「───とまあ、こういう訳だ、マギル女史。
我輩、ちと格好良すぎる所を見せてしまったか??」
「如何なる時も閣下は、《大悪魔》に相応しい立ち振舞。
この度の御助力、深く感謝いたします」
「や、や!そんなに改まらんでくれ給え!
”虫の知らせ”か、”死霊の誘い”か。
ドイツへ来たのは本当に、偶然なのだ。
そなたとしては、アレだろう?
ギルバートに、『こういう事』も含めて経験させたかったのだろうが。
カチ合ってしまうとつい、熱くなってなあ!
ま、あやつもこれからは、もう少し賢くやるだろう!」
ワークパンツのポケットから出した扇子が、華麗に広げられ。
バサバサと首元を扇ぎつつ、男は笑う。
「さてと。
これから我輩、マクツヴァの諸君と少々語らうつもりだが。
その後で、Münchenerでもどうだ?
久し振りのドイツだからなあ!
ヴァレスト君も誘って、ぐい、と飲ろうじゃないか!
ええ??」
「 はい、是非!」




