311話 悪魔のプライド 04
「・・・ええい、貴様ッ!
何故、貴様がこんな所にいるッ!?」
「”何故”と言われてもだなー。
地球は丸いし、羽田から直行便も出ているからなー。
こう真夏日が続けば、本場のビールでも飲みたくなるだろう?」
「わざわざ日本から、御苦労なことだな!!」
「いやいや!おぬしの方こそ、地獄から出張ってきたのであろう?
その熱心さには頭が下がるな!ハハハハハ!!」
(こ、こやつめ!!何様のつもりだ!!)
(『頭が下がる』どころか、高笑いを浴びせおって!)
ダルホーゼンは顔を歪め、ぎりぎりと奥歯を噛み締めた。
”ここは冷静に振る舞え”、と自分に言い聞かせてはいるのだが。
抑えきれない怒りが手を伝い、ステッキがカチカチと床を叩いている。
『MAXWELL Zwei』。
メンバーの内の1名が天使と聞き、部下には任せず自分が来たのだが。
まさか、よりにもよって『こいつ』と出くわすとは!
───白面の目元に、ブルーのシャドウ。
───逆立てた、金に近い真鍮色の長髪。
この大声かつ、やたらに尊大な男。
彼は───悪魔ではない。
しかし、著しく《悪魔のような者》であり。
殆どの悪魔から《大悪魔》と称賛されている、非常に厄介な存在である。
あろう事か評議会は、この男を正式に”悪魔だ”と認めた。
その上で、”契約点数を収める必要は無い”、と公式発表。
本当に、とんでもない事だ。
天下の評議会が徴収を放棄するなど、これまでに2例しかない。
つまり。
あの『剣狂いの炎狼』と、こいつだけの特例措置。
まあ流石に、『炎狼』のほうは”非公式な事実”であるにしても。
ただし、このダルホーゼンは、そこいらの悪魔と『肚の据わり』が違う。
貧しき家に生まれ、歯を食いしばって『上』を目指し。
栄光と挫折を味わえども、そこから更に高みへと至った、叩き上げの自分だ。
───Hell's Music Association 総裁、ダルホーゼン・ガル・カラッド。
地獄の音楽を取り仕切る者として私は断固、折れなかった。
評議会の決定など何するものぞ!、と。
真っ向から立ち向かい、この男に『協会加盟料』を支払わせた。
それは、今から数十年前の出来事。
そして、今は。
少しばかり後悔している。
「とにかく、仕事の邪魔はしないでもらおう!
私はHMAの理念に基き、正当な活動を行っている!
貴様に口を出される謂れは無いぞ!」
「ああ、いや。仕事を邪魔するつもりではなくて、だなー。
ただ純粋に、その『仕事』に関して疑問があるのだが」
「何だ!?」
「ほれ、先日あっただろう?
《Thunder Cross Comin'!》の楽曲が盗作された、という」
「・・・ああ、あの一件か」
人間界では活動していない連中の話を、何処で聞いたのだ、お前は?
地獄でも芸能誌はおろか音楽専門誌さえ、大きく扱っていない筈なのに。
「勿論、対処済みだぞ。
HMAは、アーティストの権利を保護する為にある。
件の楽曲は間違い無く、《Thunder Cross Comin'!》の権利物だ。
我々は即、盗作者に『楽曲権利の侵害料』を支払わせ、協会から除名した。
こういう事は、断固として許す訳にはいかんからな!」
「支払われていないぞ?」
「・・・は?」
「《TCC!》のリーダーと話したのだが。
”口座に1点も振り込まれていない”らしいぞ?」
「・・・」
「何で権利を侵害された側が、補償されていないのだ?
妙な話じゃないか───んん??」
ええい、くそッ!
つまらん事に首を突っ込みおって!
だが、この程度で狼狽える私ではないわッ!
周囲の侮蔑と嘲笑に晒されながら耐え続けてきた、不屈の精神!
鋼鉄の向上心!
このダルホーゼン!
断じて貴様のような悪魔に、負かされてたまるかッ!!




