309話 悪魔のプライド 02
「ダンスとかは、どうだろう」
静寂を破った声に顔を向ければ。
ケーニヒが床に転がったペットボトルを拾い、立ち上がるところ。
おお。
やっと、ダメージから回復したか。
「これまでもランツェは、間奏中に体を動かしてはいたが。
もう少し《踊る》という事を意識して、やってみるのは?」
「ダンス、ですか?」
「ああ。だが、そんなに堅苦しいものじゃなくてだな。
事前に動きを決めたりはしないで、アドリブというか。
俺達の音と一緒になるような。
その時、その時にランツェが一番”心地良い”と思えるように動く、というか」
「お!それいいねぇ!」
「フィーリングでいこうぜ、フィーリングで!」
「───はいっ!」
うん。
中々のアイデアだな、これ。
ねーちゃんもたちまち、笑顔を取り戻したぞ。
「どうだろうか、リーダー」
「・・・いいんじゃねーかな」
訊ねてきたケーニヒに、頷いてみせる。
頭の中にイメージした、ライブ演奏。
そこにねーちゃんのダンスは、うまく融合していた。
「良かった。とりあえず何でも言ってみるもんだな」
肩をすくめ、戯けてみせるケーニヒ。
けど、適当に言ったわけじゃあないだろう、それ。
多分こいつの中にも、俺と同じイメージがあったはず。
ねーちゃんと仲いいもんな、ケーニヒは。
他のメンバーと比べても、格段に仲がいい。
普通なら、《男女の仲》を疑われるくらい。
『MAXWELL Zwei』のメンバーは、ファンと付き合ってはならない。
これは、俺が独断で決めて宣言したルールであり。
敢えて言及はしないものの、メンバー間の恋愛も当然禁止だ。
ケーニヒの場合。
その仲の良さは───《合法》。
バッチリ、セーフ!
妹とか、従姉妹に対するような『家族的な愛情』に見えるし。
性的な視線や僅かな下心さえ感じない。
俺はどうしてか、そういうのが分かっちゃうんだよなー。
兄貴とマギル先生の事とか。
分かったところで、何の得があるわけでもないんだけど。
「んじゃあさー!早速『アレ』で試してみようぜ!
《From the dark side of the moon》!」
「よっしゃあ!」
エイブランがシンセの鍵盤を叩き、イントロが始まって。
俺も即座にギターのストラップを肩に掛ける。
こいつは最近マスターアップしたばかりの、新曲だ。
『ver.違い』も録っているから、シングルカットされる。
・・・というところまでは、メンバーも分かっているだろう。
だが、それだけじゃないんだぜ。
実は、『The Pain of 何とか』っていう、人気ドラマ。
秋から始まるその新Seasonで、主題歌として使われることが決定してんだよ。
ねーちゃんにしか話してないけどな、今のところは。




