302話 公認される 06
「───さて。
ここからは、自分が『樽』の中の血だったら、と考えれば分かり易い」
少々冷めてしまったコーヒーに口を付け。
俺は、じっとこちらを見つめている2名に先を続ける。
「ファリアが《禁呪》を行使した事によって、『樽の中』は大騒ぎだ。
FFCのメンバーはそれこそ、右往左往。
”おい!どうするよ、これ!?”
”会員が半分になっちまったぞ!?”
”いや、それよりも!
俺達のファリアちゃんが、落ち込んでしまったじゃねーか!”」
「・・・うわ、声色まで使い分けだしたぞ、こいつ」
「───ファリア、ちゃん───?」
「もしも俺が、樽の中の一滴だったなら。
きっと、こう言うだろうな。
”見苦しいぞ、お前ら。
騒いだところで何の解決にもなりゃしねぇ。
こういう時こそ、FFCの組織力ってモンが問われるんだろうが。
あと、『俺達の』じゃなくて、『俺のファリアちゃん』だ”」
「・・・身振り手振りまで・・・」
「───ファリア、ちゃん───」
「”何ぃ!生意気だぞ、ヴァレスト!”
”お前な!簡単に言うが、どうすりゃいいってんだ!?”
”ふふん。我に秘策あり!
俺はこの辺りに住む俺の子孫の、夢枕に立つ。
そして、ファリアちゃんに血を捧げよ、と耳元で小一時間囁くね!
向こうが根負けするまで、何日掛かってもだ”
”いや、それは・・・しかし、だな・・・”
”今の時代、殆どの人間は吸血鬼なんて信じちゃいないぞ?”
”屋敷まで来させたところで、俺達のファリアちゃんに血を捧げる保証は”
”吸血鬼を信じる信じないは、どうでもいいんだよ。
とにかく、此処まで足を運ばせたらもう、勝ったも同然だ。
実際にファリアちゃんを見れば、必ず惚れる。
確実にオチる。
あと、繰り返すが『俺達の』じゃなく、『俺のファリアちゃん』だ”」
「・・・・・・」
「───ファリア、ちゃん───」
「”な、なんてエクセレントなアイデア!!”
”やってみるか!うちの子孫にも声を掛けよう!”
”よし!うちもだ!”
”ヴァレスト、お前だけに格好は付けさせんぞ!”
”行くぜ、FFC!!総員作戦開始!!”
”ファリアちゃんに、新たな血を捧げるのだー!!”
───とまあ、こういう展開になる訳だ」
うむ。
我ながら、名演技だったな。
意外に俺は、俳優としての才能があるんじゃないか?
ちょっと自分が恐ろしいぞ。




