299話 公認される 03
「・・・言っとくけどさ。
僕はそういう事をやれ、っていう『指示』なんか、出してないからね?」
クライスが憮然とした表情で溜息をついて。
それから、ちら、とこっちを見た。
ん?
俺か??
「───おいおい、俺だって何も知らないぞ?
『集団暗示』ぽいが───いや、違うか。
あれ系は2〜3項目の強制と引き換えに、それ以外の反応が極端に落ちる。
ちょっとでも会話すりゃすぐ、ファリアも気付くだろうしな」
「ええ、そうね。そういう不自然さは無かったわ。
勿論、魔法に掛けられた痕跡も見付からなかった」
「けどさー。絶対それ、偶然とかじゃないじゃん」
「彼等は屋敷まで来たものの、《吸血鬼》の存在は信じていない様子だった。
この世に吸血鬼はいる、と私からは言えない。
けれど、自分で自分を否定してしまうのも、おかしな話だから。
”仮に《吸血鬼》がいたとしても、貴方達に血を捧げる事を強要しない”。
”全て忘れて、街へ戻りなさい”。
そう言ったのだけれど。
彼等は立ち去らなかったのよ」
「あーー、そりゃあね。
”血を寄越せ”より、”要らないから帰れ”のほうが逆に、帰れないよ。
気になり過ぎてさ。
君の場合、それを狙った訳じゃないだろうけど」
「向こうには代表らしき者がいて、幾つか質問されたわ。
”血を捧げなかったら、どうなるのか”。
”捧げた血は、何に使われるのか”」
「え??
『何に』って・・・変だぞ、それ。
人間の問いとしては、かなりおかしいよ。
『吸血鬼は血を吸って生きる』。
そういう認識の上で、どうして更に先を考える必要が」
「私も、そこには違和感を覚えたのよ。
吸血鬼がいるなんて信じていないけれど、吸血鬼が何なのかは知っている。
血は飲む以外にも使い道がある事を、知っている。
彼等は、どうやってその知識を得たのか」
ううむ。
───誰かが教えた?
───150名もの人間達に?
少なくともそれは、『現代のヤツ』じゃないな。
吸血鬼が血を蓄えるのは基本的に、他の吸血鬼と戦って勢力を拡大する為。
血は即ち、火薬であり。
弾丸そのものなのだ。
”動けて闘える者”と同じくらい、保有する『樽』の数自体が戦力。
たとえ今は大っぴらに争ってはいないにしても、その価値は変わらない。
そういった事までを知るのは、かなり古参の何か。
映画に出てくる『想像上の吸血鬼』は大抵、単独で行動している。
闇の中から現れ、ちょいと首筋に噛み付いて、というヤツばかりだ。
普通は、思いもしないだろうよ。
真っ昼間から一族郎党を率い、集団戦を繰り広げていたなんて、な。




