298話 公認される 02
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吸血鬼の飲み物といえば、ワイン。
そして紅茶。
なんていう、世間的なイメージに合わせている訳ではないのだろうが。
確かにファリアは、紅茶を好む。
けれど、それを他者に押し付けることはない。
むしろ俺の嗜好をよくよく理解していて、気を効かせてくれる。
飲み下した後にすっきりと引く、柔らかな酸味。
鼻腔を満たす、ヴァニラにも似た仄かな甘い香り。
───スノートップ。
素晴らしく良い豆だ。
やや深めのローストが、見事にマッチしてるな。
「これで本家の修繕に関しては、終了だね。
業者に任せなかった分、時間は掛かったけど、安く上がったよ。
大体7年くらいで経費は回収出来ると思う」
「そう。有難う」
「今年は《連合会議》が開催されるから、他家も表面上はおとなしいよ。
終わった後は、反動が来ると思うけどさ。
ま、秋までは安泰じゃないかなー。
本家はどうだい?
何か問題とかある?」
「いいえ。特に何も無いわね」
「そっかー」
「先日、屋敷を包囲された時は、少し驚いたけれど」
「「!!??」」
うっお。
ファリアが、とんでもない発言を。
しかも、”昨日は雨が降った”くらいの感じで、さらっと。
いやいや、危ないところだった。
コーヒーを飲み込んだ直後で、ギリギリ助かったぞ。
吹き出したりしたら、せっかくのスノートップが勿体無い。
だが、クライスのほうは不幸にも、『直撃』だったようだな。
「ちょっ、ちょっと・・・ぐふっ!・・・待って、待ってよ!!
僕、そんなの聞いてないぞっ!?
一体、どこの連中が!?」
「落ち着きなさい。
相手は吸血鬼ではないわ。人間よ」
「人間!?・・・いや、それにしたって、『包囲』って!!」
しきりに手の甲で口元を拭いながら、クライスが叫ぶ。
「どうして僕に連絡しないのさ!?
くそっ!!
ここに勤めてる者達にも、何かあればすぐ知らせろと言っておいたのに!!」
「それは、私が止めたわ」
「何で!?」
「貴方も色々と忙しいだろうと思って」
「あ"あ"あ"あ"ッ!!気を遣う箇所が違うんだよォッ!!」
「───なあ、クライス。そんなに興奮するなよ」
やかましいので、堪らず割って入る。
「もう終わった事だ。今更どうこう言ったって仕方無いだろう?
ファリアが無事なら、それでいいじゃないか」
「全然良くないからッ!!
『分家衆・筆頭』として、笑って済ませる訳にいくもんかッ!!」
だから静かにしろって、お前は。
ファリアも顔をしかめてるぞ?
面倒な奴が面倒な役職に就いたら、本当に厄介だな。
荒く呼吸を繰り返し。
眉間に皺を寄せた激怒の形相で、クライスが尋ねる。
「向こうは、何人いたの!?」
「おおよそだけれど、150名ほどかしら」
「・・・はあ・・・まったく、もう!
それで、目的は何?『立ち退き要求』?」
「いいえ。夢を見たらしいのよ」
「は??『夢』ぇ??」
テーブルに両肘を付き、頭を抱えようとしていたクライスが顔を上げた。
「何だそれ?」
「───”街を出て、北東の山を登れ”。
───”白壁の大きな屋敷に住む吸血鬼と会い、己が血を捧げよ”。
全員が、同じ『夢』を見たそうよ。
3日続けて」




