28話 無限の国 07
「俺達、悪魔は。人間との『契約』が成立した際に、そいつの魂を持ってゆく」
「おおーー!やっぱ、それだよ!かっこいいっスね!」
「格好の良し悪しは、関係無ぇ。『仕事』だ。
悪魔なら半人前だろうと半々人前だろうと、やらなきゃならん」
「ええと・・・あれ?じゃあ、俺って今、魂が抜けてる状態なんスか?」
「いや。お前と『契約』した覚えは、全く無い」
「??」
「それに、そもそも悪魔には、魂を抜くなんて権利は無ぇよ。
一部を削り取り、一旦『評議会』に預け・・・って、それは説明しても
無駄か・・・」
「????」
「まあ、とにかく。人間が望む事を叶える代わり、悪魔はその魂(代償)を削り取る。
それが真っ当な『契約』ってわけなんだが。
本当に、極稀に。
『契約料』を支払わねぇ、とち狂った奴がいる。
────それが、『反抗者』だ」
「要は、食い逃げ野郎って事っスね?」
「おうおう!くしゃみが出そうな話が、聞こえてきたぞい」
「聞こえるように言ってんだぜ、爺さん」
先頭を行く老人から、呵呵、とおどけた笑い。
地下へと続く、石造りの階段。
不思議と湿気は無いが、絡み付く空気が生ぬるい。
進む度、仄かに青く灯る両壁も神秘というより、不気味であった。
“────やはり、干渉出来ませんね”
後ろを歩く秘書からヴァレストに、『直接私信』が送られてくる。
“障壁の5枚目までは、高度ではありますが貫けます。
しかし、その先からの術式が『種類不明』────初めて見るタイプです”
“俺も、ちょいと触ってみたが・・・弾かれて通らなかった。
お前のデータベースに該当無しとか、まさか・・・『禁呪』レベルか?”
“そんなものが地上に流出していたら、文字通り「世も末」ですよ。
これから、組み合わせパターンで試してみます”
“おう、頼む”
最後の一段を降りると、何故か近代的なシリンダー錠付きの扉。
鍵も取り出さず、老人がステッキで2回ノックすると、ガチャリと解錠音。
「────さあさあ!遠慮なく入れ、泥棒共!」
円形の広間を照らし出す、豪勢なシャンデリアライト。
その華やかさと反対。
埃だらけの床は木製で、あちこちが割れ朽ちており。
それと同じように傷んだ、大小様々な木箱。
大手スーパーのロゴ入りの、ビニール袋。
開かれたままで変色した、ギリシャ語の医学書らしきもの。
アニメロボットの、プラモデル。
恐竜の前肢の化石。
当人以外はみな、頭を抱えたくなるような惨状。
散らかっていないのは、垂直方向。
額入りの巨大な絵をぐるりと掛け繋げた、壁のみである。
「────泣けてくるほど素晴らしい『我が家』だな。
うちの秘書を1週間、貸してやろうか?」
「いいや、結構だ!あと、茶は出さんが適当に座って良いぞ!」
床に放ったトランクケースと、座ったボロボロの革張り椅子。
両方から綿埃を舞い散らせて、灰髪の男が笑う。
「う・・・ううっ・・・俺、なんか気持ちわる・・・い・・・」
口元を押さえ、よろめくギター青年。
嫌々腰掛けた木箱が壊れ、見事にひっくり返り。
動かなくなった。




