297話 公認される 01
【公認される】
───『いい男』というものは、シチュエーションを問わない。
子供達が駆け回る公園。
真夜中の波止場。
夜明けの地平を見下ろすコテージのテラス。
どんな場面においても、俺は完璧だ。
そこに居るだけで、絵になる男。
気取る必要はない。
コーヒーがあり、灰皿があるなら、それでいい。
傍らに女性がいればもう、何もかもが満たされる。
周囲の喧騒は、耳朶をくすぐるジャズナンバー。
静寂さえも、俺という存在を引き立たせるフレグランス。
───ただ、誤解してほしくないのだが。
───普段からスーツ着用ではあれど、俺は決して『高級嗜好』ではない。
予約待ちするようなレストランじゃなく、ふらりと入れるカフェテリア。
有名ホテルのスカイラウンジで飲むより、ドアが軋む古ぼけたバーを選ぶ。
そもそもだ。
どれだけ金を払って、質の高いサービスを受けたとしても。
それは向こうの『想定内』、『規定内』。
誰かが決めた、『そうあるべき環境』だ。
俺はそういったものに合わせるのではなく、自分で選ぶことを好む。
ベストな時に。
ベストな場所へ。
目新しさや流行を求めた時期もあったが、現在は違う。
人間社会ではドラゴンなんて、埃を被った『幻想』だ。
無理に適応しようとするより、それらしい所に身を置くほうが自然だ。
ミラーボールの光を浴びながらドンペリ空けるとか、こっ恥ずかしいんだよ。
マギルから渡されてる月々の小遣いも、多くはないしな。
───そんな訳で。
───やっぱり足を運んでしまうのは、落ち着ける場所。
椅子の背にもたれて、くつろげて。
なんなら欠伸くらいしたって、許されるような。
顔馴染みがいて、あけすけに語れる空間。
つまり。
ファリアの屋敷である。




