293話 不正行為 01
【不正行為】
「・・・こんのッ・・・!」
感情のまま、罵倒を口にしようとし。
すんでのところで無理矢理飲み込み、堪える。
───ああ、まったく。
駄目だなぁ。
最近は独り言が多くなった自覚がある。
所謂『独語』ってやつは、自己防衛の為に発現するのが主らしいが。
そりゃあ、そうだろうなぁ。
これだけストレスを受けたら、当然の事だね。
(お前らのせいだぞ!)
足元の、《切断面からグツグツと沸騰している肉塊》を睨み付ける。
鳥とも犬ともつかない、奇怪な生物。
奴等が僕の所にやって来るようになって、2ヶ月だ。
それでなくともこれは『かなり強い』し、面倒なのに。
殺しても殺しても、48時間以内にまた出現する。
《座標》を変更し、ありったけの暗号を施しているにも関わらず。
どうやってか、この場所を割り出して突入して来る。
その度に、僕の部屋は滅茶苦茶。
綺麗に散らかした心地良いプライベート空間が、壊滅的被害。
物書きをしている余裕なんか、ありゃしない。
友人から貰ったノートPCだけは、本気で死守する必要がある。
48時間後ではなく、48時間以内というのがまた、絶妙な嫌らしさだ。
死体が消えて20分経たない内にもう一度来やがった時は、流石にキレたね。
温厚な僕をあそこまで怒らせるとか、大したもんだよ。
数百トンの金塊にも値するレベルだよ。
(ほんと、やってくれたなぁ、あの吸血鬼)
女性にはからっきしモテない身だが、ここまでしなくたっていいだろう?
どんだけ嫌われてんだ、僕は?
せめてさ、1回こっきりで終わりにしてくれよ。
まさかこんな陰湿なテロ行為が、延々と続くなんて思わなかったよ。
次第に小さくなってゆく肉塊。
その最後の泡立ちが、完全に消滅する直前。
右手の人差し指の爪に、ぼう、と赤い光が灯る。
(ああ、やっと溜まったか)
───僕も、ただ手を拱いていた訳じゃあない。
───《逆探知》は仕掛けていた。
かなり微弱で、難解で、遅々として進まなかったが。
今回のでようやく、解析に足るだけのデータ量が蓄積できたらしい。
よし!
これで根本的な解決に踏み出せる。
いつまでもやられっ放しは御免だ。
こっちから乗り込んでいって、一網打尽にしてやらないとな!
「・・・ん?・・・んん??・・・ううーーむ・・・」
けれど、そうそう甘くはなかったようだ。
すぐさま試してみれば、確かに『向こうの位置』は判明したが。
───なんか、その。
───凄く遠いな。
いや、遠いどころの騒ぎじゃ済まされない。
どうやって行けばいいんだ、これ?
座標の表示が、とんでもない数値を示してるんだけど!?
「・・・・・・」
腕を組み、立ち尽くす。
本来ならばグルグルと歩き回りたいところだけど、そうもいかない。
襲撃者と交戦した余波で、またしても部屋が荒れている。
『いつか使うかもしれなくて捨てられない貴重品』を、踏み付けたくない。
それに、こういう時の僕の動作は結構、みっともないらしいのだ。
友人達曰く。
”まるでノイローゼになった、動物園のクマ”。
クマにも僕にも失礼だよ、ほんとに。
「・・・・・・」
んーーー。
やっぱり、アレかな。
一番慣れた方法でやるしかない、のか。
はあー。
思わず、溜息。
『絵描き』はやめたし、ルーベルにもそれを宣言した手前、気が引ける。
引けるけど、他に適当な手段が無い状況だし。
運が悪ければ、またすぐにでも『鳥犬』がやって来る。
うだうだ考えている時間さえ、今は惜しいな。
(───ええい、仕方無い!)
(───1度だけ!コトが終わったら、すぐに証拠隠滅で!)
まあ、何とか覚悟は決めたけれど。
そこから先は我ながら、少しもカッコ良くいかなかった。
イーゼルやカンバスを引っ張り出してきて、絵を描く準備に一時間。
基本的な構想に一時間。
下書きに一時間。
ウンウン唸りながら筆を走らせた挙げ句、気に入らなくて三時間後に破棄。
・・・完成したのは、開始から十時間以上も経ってからだ。
いやはや、アレだね。
元々遅筆だったのが、ブランクのせいもあって酷い事になってるな。
その上に才能も無しときたら、そりゃあ廃業も止むなしだよ。
だけどまあ、一応は仕上がった。
僕が想像してたよりも、かなりヤバそうな絵になっちゃったけどね。
さあて!
それじゃあ早速、行ってみようか!
・・・あ、待てよ。
着替えたほうがいいかな?
絵を見た感じ、『向こう』はちょっと寒そうだぞ。
けれど、殆ど外出なんてしないし、服装と言っても───
ああ、もう!
面倒だな!
あんまり着た憶えの無いパーカーとか、そういうのでいいか!
それが何処にあるのかが、ちょっと分からないけれど!




