27話 無限の国 06
「────“何かを探し求める”という事は、確率との戦いです」
うねうねと這い回る、最後の異形をヒールの踵で踏み潰し。
更にそれを、容赦無く蹴り飛ばす。
「基本中の基本を、あえて解説しますが。
確率を上げる方法は、手数だけではありません。
『確率の高い手段』を、どれだけ吟味し、実行できるか。
そこに」
「分かった、有難う」
「今回のように、飛行実験と平行することで無駄を省き。
ピンポイントで」
「いや、お前は凄いよ、マギル!
だから、ちっとは『あれ』をフォローしてやってくれ。
一応、お前の期待した結果を出したんだろ?」
「・・・飴を与えるには、まだ早い・・・」
「ちくしょう・・・俺って、駄目なやつだ」
ショッキングオレンジの触手から離れ。
ギターケースを背負った青年は、膝を抱えて座り込んでいた。
「・・・飛べねぇし・・・全然、強くねぇし・・・」
「でも!ギルバートさんがいなければ、見つけられませんでしたよ?」
「うぅ・・・天使に慰められるとか、もう・・・俺ってやつは・・・」
「ああ。本当にお前は、面倒臭ぇやつだな」
「そんな・・・兄貴ぃ・・・」
「お前がどう思ってようが、とにかく。
俺らが3日かけても見つけられなかったところを、お前はダイブ1発で当てた。
いい仕事してんじゃねーか、かなり」
「・・・そうかな・・・」
「まあ、これで『絵』に描かれた森が、ここだと実証されたわけだ。
・・・そうだろ、ランツェイラ?」
「────はい!」
少し、目を細めて。
夜霧の向こうに霞む丘を見つめる天使。
「風景が少々変わってしまったようですが、見える角度は同じ。
きっと、この場所から描いたんだと思います!」
「じゃあ、後はその・・・『いかにも』ってのを開けるだけだな」
湿った落ち葉の上。
異形が消えた後に残した紫色の染みが、図形を象っている。
長方形と、その中の端に寄った小さな円。
典型的な『扉』である。
「ん・・・・・おおっ?結構、硬ぇのが掛かってやがる」
右手をかざしていたヴァレストが、舌打ちした。
「なんだこりゃ・・・でたらめな術式を挟みやがって!
ちょっと下がってろ。2、3発かまして、こじ開ける!」
「どれ、儂が開けてやろうか?」
不意にかけられた声に振り返れば、人影1つ。
突如現れたか、それとも忍び寄ってきたか。
誰にも気付かれぬ内に、その老人は立っていた。
「・・・随分とまた、都合のいい御登場だ」
「なあに、たまたま5年振りに我が家が恋しくなってのう────都合良く」
ダークブラウンの大きなトランクと、ステッキ。
ざんばらの灰髪に、同じ色の口髭。
カーキ色の外套の肩には、小さな黒猫が一匹。
「────相当怪しい爺さんだな」
「────あんたらも、なかなかじゃわい」
薄い黄色の目をした老人が、にたりと笑った。




