279話 知らないことは、知らないことに 05
「まあ旅行するにしても、オーストラリアは止しておけ。
あそこは今、『激戦地帯』だぞ」
「それは知っているよ。けれど、同族に会う為じゃないし」
「だったら何が目的だ。コアラなら、思ったほどいないぞ」
「コアラよりもっと、珍しいものさ」
ストロベリーパフェのホイップクリームを掬いつつ。
何故か少し得意気に、男が目を細める。
「私はね・・・『海エルフ』を探しに行くんだよ」
「『海エルフ』??───何だ、それは」
「ええとね。
私の家系を遡ると、大分前なんだけど有名な冒険家がいてね」
「エルフの冒険家?」
「そう。自称・冒険家。
ただ、当時は今より更に閉鎖的だったから、皆からは変わり者扱いで。
その彼が残した手記の中に」
「ちょっと待った」
「え?何だい?」
「───どうも引っ掛かるな」
「あのね。まだ何も肝心な事を話していないんだけど?」
「いいや。こういう直感は結構、当たるんだ」
「だから、何がだい」
「───その『冒険家』は、結婚してたのか?」
「うん、していたよ」
「───妻が実家に帰ったりしなかったか?」
「・・・・・・」
「どうした」
「・・・そういう記述も・・・まあ、あったね・・・」
「───やはり、血は争えないか」
「さも知ったように私の家系を語るの、やめてくれない!?」
「語るも何も。これは明らかに、『遺伝性の疾患』だろう」
「・・・え??」
「起源が何処からだったかは、分からないが。
少なくともその冒険家の遺伝子には、『それ』が含まれていた。
おそらくは男子のみが発症する、『X連鎖潜性遺伝』の典型的な例だな」
「・・・・・・」
「という事は、だ。
『それ』を仮に『r』とすると、お前の両親は共に潜在的な因子持ちで。
男子であるお前に両方が揃って『rr』となり、件の遺伝特性が発現。
お前が成長し、結婚し、何らかの条件を満たした瞬間。
───妻が実家に帰る。
そういうわけだ」
「・・・何で肝心な部分が力技なの?最後まで頑張ろうよ」
「冒険家の妻は、戻って来なかったのか?」
「え?」
「離婚したのか?」
「いや、結局は仲直りというか、一緒に暮らしたらしいけど?」
「だったら、お前もそうなるだろう。心配するな」
「・・・え??」
「血は争えないからな」
「・・・・・・これは驚いた・・・そういう考え方も、あるのか。
うん・・・ありだよね・・・」
「ただし、『家庭内別居』というのも」
「どうして余計な事を言うかな、君は!?」




