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26話 無限の国 05


「────『悪魔』とは、魔素を内包し。

 それを『魔力線(かいろ)化』して、効率良く運用出来る者を指す」


「・・・・・・」


「“魔力を放出する”といった、自己外への作用のみならず。

 “歩く”、“走る”等の動作にも、魔素は消費されてゆく。


 それは、ほぼ無意識的に行われる、生理作用。


 歩こうとすれば歩け、走ろうとすれば走れる。

 仮に『脚のような器官』が存在していなくとも、それとは無関係に現象は起こる。


 “移動する”という意思を、魔力線(かいろ)が処理し。

 その結果、“移動した”という現実になる」


「・・・・・・」


「それが、『悪魔』と呼ばれる者の力。

 基本的な成り立ち。


 歩けぬ悪魔も、走れぬ悪魔も、泳げぬ悪魔も存在せず。

 存在する筈がない。


 よって────」



 左手に手帳を持ち。

 右手に『それ』の襟首を吊り上げ・・・いや、吊り下げて。


 秘書は確信に満ちた声で、断言する。



「ギルバート・サイクス、21歳。お前は、飛べる」


「あっ・・・ああっ・・・」


「お前が、『飛ぼう』という意思を持つ限り。

 そして、『飛べる』と信じ続ける限り。


 必ずや魔力線(かいろ)は回り。

 魔導器(フライングV)は、闇の翼と化すだろう」


「おっ・・・俺は・・・飛べる・・・」


「高度1200フィート、北北西、風力2────本日1回目の飛行『実験』を開始する」


「っ・・・!俺はっ・・・!」


「────Gehen(行け)




「ぶわあああぁああっっ!!!とべりゅうううううううう!!!」




「あーー、少しも重力に逆らえて・・・落ちたぞ・・・」


「ええ。落ちました」



 何の感慨も含まない声で、手帳のページを()り。

 そこに触れないまま、文字を焼き付けてゆくマギル。



「東洋において、『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』と云います」


「あいつは、お前の子か?」


「いいえ」


「・・・・・・」


「しかし、私は『獅子』です」


「おい」


「ボス。私は彼が飛べるとは、少しも信じておりませんが。

 才能を強化するには、この方法がベストかと」


「ひどい言い草だが、一応聞いておく。どんな才能だ?」


「────あの子は、ほぼ『人間』ですが。

 そうとは思えないほど、知覚能力に長けています。


 “悪魔や天使が視える”というだけでなく、ひょっとすれば『それ以上』も。

 いずれは、『千里眼(ドヌビス)』になるかもしれません」


「そうなのか?

 知覚というか・・・まあ、感受性は高そうだが」




“うおおーーーい!兄貴ぃーー!助けてくれーーー!!”




「────拾いに行ってくる・・・」


「あら、さすが『兄貴』」


「あんまりスパルタしてやるなよ、マギル?

 泣きつかれるほうの身にもなってくれ」




“兄貴いぃーー!!早く来てくれよぉおおーーー!!”


“なんか、気持ち悪いオレンジ色のが、うねうねして────”




「何ぃ!?」


「 ────Wahlen(当たり)!」


マギルさんは、口調を使い分けています。

ボスやメイエルさん、ランツェイラ。

それ以外、という感じで。

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