276話 知らないことは、知らないことに 02
「きゃああ〜〜〜!怖っ!!悪魔、怖っ!!」
「何なの、『お皿』って!?『お皿』で何するのっ!?」
エンディングテーマに乗せ、クレジットが流れるTV画面。
ソファに座った2名の天使が身を寄せ合い、悲鳴を上げた。
「───ふんっ。何だ、こんなもの」
その後ろの丸テーブルでコーヒーを飲んでいたもう1名が、立ち上がり。
リモコンのボタンを押して、問答無用に画面を消してしまう。
「あ〜〜!!ちょっと、寮長〜〜!!」
「最後まで見ないと、次回予告が!!」
「見なくても分かる。
どうせ、死んだと思われていた『祓い屋』の男が、実は生きていて。
ギリギリでアリサとやらを助けるんだろう」
「それ言っちゃったら、身も蓋も・・・」
「まあ、主人公は最悪でも最終回の前半までは死にませんからねー・・・」
「そういう予想が立つ事自体が、このドラマの稚拙さを証明しているんだ」
ソファ前のローテーブルにリモコンを置き、それを几帳面に真っ直ぐ直し。
『寮長』と呼ばれた天使は、溜息をつく。
「───大体な。悪魔は直接的に人間を害する事なんて出来ない。
お前らも、それくらいは学院で習っただろう?
こんな設定ガバガバの『悪魔もどき』を怖がってどうする」
「やー、でもでも。あたし達、悪魔ってよく分かんないし」
「分かんないから、むしろドラマのほうを信じちゃうんですよねー」
「街を歩いてたら悪魔の1匹や2匹、出会うだろうが」
「そりゃそうですけどー。でも『休戦協定』があるから、戦わないし」
「本当のところは、どのくらい強いのか、怖いのか」
「───ふむ」
「寮長って、《大戦》経験者ですよね?」
「戦ってみて、どうでした?悪魔って」
「経験者と言っても、わたしが動員されたのは末期だからな。
あまり偉そうに語る資格は無いんだが。
まあ、そうだな───悪魔の強さは、それぞれ異なる。
一概に『強い』だの『弱い』だのとは言い切れん。
だが。
怖いのかと問われれば、『怖くない』な」
「え??どうしてですか?」
「強い悪魔と戦いになったら、怖いんじゃ?」
「いいや、怖くないな。
弱い悪魔は倒せるから、怖くない。
強い悪魔にはすぐ殺されるだろうから、怖さを感じている暇も無い。
つまり。
『悪魔は怖くない』」
「凄い論理ですね、寮長・・・」
「でも、実戦においては真理なのかも・・・」
「それにな。悪魔より、エルフのほうが怖いぞ」
「えー??あの『耳が長い』のですか?」
「細すぎて、ポキッと折れそうなんですけど」
「───お前ら、よく覚えておけよ?
エルフは、簡単に殺してくれないんだ。
じわじわと、本当にじわじわと、『なぶり殺し』にされるぞ?
骨が折れても、内臓が潰れても。
そんな事じゃあ、終わらせてくれない。
痛みで気を失い、次の痛みで意識が戻り。
精霊魔法で空気を遮断されたら、”助けてくれ”の声も響かない。
当然、自決もさせてくれないぞ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「都市部だと、まず遭遇しないとは思うが。
もしもエルフと出会って交戦状態になりそうだったら、必ず増援を呼べ。
絶対に、自分だけで対処しようとするなよ?」
「は、はいっ!」
「覚えておきますっ!」
「あと、髪は短くしておいたほうがいい。
掴まれて、引きずり倒されるからな」
「・・・」
「・・・」
「よし。そろそろ時間だ、今から共用部は消灯する。
自室に戻れ。あまり夜更しするんじゃないぞ」
テーブルを全て、濡れ布巾で拭き上げる。
椅子とソファも同様。
散らかったクッションを揃え、美しく配置。
各所のBOXティッシュの残量を確認。
床に落ちている菓子の包み紙やセロファンフィルムを、塵取りで集める。
それを屑入れに棄て、ついでに中のゴミ袋も交換する。
最後に、談話室の照明スイッチをオフにする寸前。
何故か、TV画面を見てしまった。
勿論、そこには何も映ってはいない。
映る筈がない。
けれど、あの『皿』は、どう使われるのだろうか。
(──────怖っ!!)
ネイテンスキィは、ぶるり、と身を震わせた。




