273話 That's all right. 03
「───先輩。
さっきから何か、向こうにいる人間が睨んでくるんスけど。
あれは一体、何なんッスか?」
「あーー。どう説明すりゃいいんだろうな。
『元気過ぎる人間達』、というか。
ドラゴン2.05体を相手に、なかなかの度胸だとは思うが」
「俺は、0.05なのか?
タダ飯を食っといて言うのも、気が引けるがよ。
いっその事もう、カウントしないでくれねぇか?」
「俺やキースは何故か、『ああいうの』に絡まれがちなんだが。
オーレン、お前も同じかもしれないな」
「はあ。ドラゴンって、そういうモンなんスかね?」
「どうだろうな、それは。
まあ、とにかくだ───お、丁度こっちへ来るみたいだな。
いい機会だ、連中のあしらい方を教えておくか。
俺とキースで」
「いや、だからさ。数に入れんなって俺を。
一応、食った分くらいは協力するが」
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「食事中に失礼する。
先程は、申し訳無かった───俺達は」
「よせよ」
謝罪を口にするや否や、止められた。
「何処の誰かなんて、言わなくていい。
互いの関係が上手くいくなら、そんなものはどうだっていいんだ」
通路側、俺達に近い方に座った男が言う。
双子のようだが多分、こちらは『弟』だろう。
窓際に座っているのが『兄』か。
「しかし───いや、その通りだ」
”何処の誰かなんて、言わなくていい”。
これには、黙るしかなかった。
俺達イタリア・マフィアには。
血の掟以外にも推奨される『美徳』がある。
その1つが、
”一家の名や、その構成員である事を口にしない”、だ。
敵対者との抗争時や、逮捕された際に限った話ではない。
常日頃からの心構えである。
「まあ、そっちが何者だろうと俺達は気にしないさ」
『弟』は小さな白いカップに砂糖を3杯入れ、2回だけ混ぜて。
それから言葉を続けた。
「俺はただの営業マンで、こちらは会社の社長。向かいのは、まだ学生。
そしてここは、誰だって入れる場所だ───弁えようぜ」
「───」
コーサ・ノストラのメンバーは必ず、社会的に通用する正業を持っている。
営業マンと言うだけあって、『弟』の足元にはビジネス・トランク。
自分の兄の事を”こちら”と紹介したのは、立場の差があるからか。
兄弟にも関わらずそうしなければならない理由は、ただ1つ。
『兄』のほうが、一家の『首領』であった場合だ。
(───やはり、詫びに来て正解だった!)
こんな連中に、敵うわけがない。
この『弟』、全く隙が無い。
それでいて、少しも俺を警戒していない。
何故なら、力量が圧倒的だからだ。
立っている俺が何かしたところで、瞬時に対応されるだろう。
勝てるイメージどころか、体に触れる自信すら湧かない。
元・軍人?
特殊部隊の出身者か?
こんな男が、営業で何を売り込むっていうんだ?
しかも、あの赤毛の男。
学生だと?
俺達みたいな裏の住人は、学校なんかまともに通わない。
10や11で売人を始め、14あたりで殺人を経験するようなのばかりだ。
例外があるとすれば───法律関係。
将来の《法律屋》候補か。
そういう奴は専門分野には強いが、暴力装置としては2流以下なのが普通だ。
周囲に影響されてそれなりの面構えにはなるが、所詮はそこまで。
強いか弱いかと言えば、弱い。
なのに、どうだ───さっきの迫力、威圧感は。
卒業すればすぐに幹部クラスだろう、あれは。
首領が同じテーブルに着く事を許す時点で、相当可愛がられているな。




