271話 That's all right. 01
【That's all right.】
「どこで暮らすにしろ、旅の途中で寄っただけにしろ。
生まれ育った場所のメシってのは、ふと懐かしくなるもんさ。
故郷の言葉で書かれた看板見つけりゃ、特にな」
「いや、まあそれはそうだろうけど・・・」
「人間なんて様々だが、腹が減ったら皆同じだ。
当然、こういう種類の奴等だって来る。
採用する時にも言った筈だぞ?」
「確かに聞いたさ、聞いたけど!
いくら何でも『あれ』はないよ、オーナー!無理だって!」
ぶんぶん、と首を横に振るバイト青年。
オーナーと呼ばれた壮年の男は、短く吐き捨てるような溜息。
(お前、散々自慢してたろうが。
何人相手に喧嘩しただの、どこぞの誰に勝っただのと)
やっぱり口先だけか。
一々真に受けず、これまでは適当に相槌を打ってきたが。
結局いざとなったら、この有様だ。
こういう時に格好が付けられないなら、最初から言わなきゃいいのによ。
まあ───『あれ』を見たら、そうなっちまうのも仕方無いか。
一番奥、壁際のテーブルに着いた3人組。
どんな阿呆でも一発で『分かってしまう』ほどの、存在感。
威圧感。
とてもじゃないが、素人が対応出来るような相手ではない。
特に、ダークスーツの2人。
目の奥の光がヤバすぎる。
あれは人間の姿をした、凶悪な肉食獣だ。
己の強さを自覚しており、他者を蹂躙する事に一切の躊躇いが無く。
笑いながら殺し、臓物を引き千切り。
その血の海に座ってレアステーキを平らげるような、『暴虐』の頂点。
元々『そっちの世界』にいた自分でも、背に冷たい汗が滲むくらいだ。
並んで座った2人に対し。
その向かいに腰掛けた、まだ若い1人。
こちらはやや『軽め』な印象だが、それもこの場での単なる比較でしかない。
あの男だって実際は、相当なものだろう。
1人で道を歩けば、街の強面連中が全員避けちまうレベルだ。
「───アッカルド兄弟と、舎弟のダニーロか」
「え??」
「揉めたロシアン共を全員ブチ殺して、一躍有名になった奴等さ。
だが派手にやり過ぎたもんで、イタリアに居られなくなってな。
しばらくは他国で『夕涼み』ってのは、噂で聞いちゃいたが。
まさか、ウチの店に来るとはな」
「ええ〜〜・・・」
「ま、それはそれとして、仕事だ。
さっさと注文取ってこい」
「い、嫌だっ!そこまで教えといて、あんまりだよ!
これもう、洒落になんないって!!」
「デカい声出すんじゃねぇ、馬鹿。
ふん───今回だけは、俺が代わりに行ってやるか───」
オーナーは腰の後ろ辺りに、ぐい、と力を込め。
トレードマークである赤いバンダナを手早く外した。
(ヤンチャ坊主にはいい薬だろうが、店を辞められても困るしな)
(最低限の挨拶だけは、しておくか)
挨拶といっても、堅気の連中が思うようなものじゃない。
堅っ苦しい文言や、作法もありゃしない。
顔見て目ぇ合わせたら、全部『分かる』。
余計な言葉なんか必要無い。
それが、《マフィア》ってもんだ。
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「先輩、すみませんッス!御馳走になりまッス!」
「おう、いいっていいって。気にするな。
せっかく地上に来たんだ、握り締めた小遣いを減らす事も無いだろ」
「へへっ、今日の俺はツイてるぜ!これで1食分浮いた!」
「ああ??キース、お前は稼ぎがあるだろうが」
「アンタが思ってる程、営業ってのは高給取りじゃないんだぜ?」
「───まあ一応、年長者の義務として奢ってやるが。
今回だけだからな?」
「よッし!」
「それで───どうだ、オーレン。初めての地上の印象は」
「結構ゴチャゴチャしてて、人間が多いッスね」
「そりゃそうだろう。ミュンヘンは都会だからな。
少し田舎のほうへ行きゃ、のんびり長閑なもんだよ。
ただ、なあ。
将来はこっちで暮らすにしても、『巣穴探し』は簡単じゃないぞ?」
「そのへんは、お袋からも聞いてるッス。
けどやっぱり、伝統ってのを大切にしていきたいッスから」
「ふうむ───なかなか立派なドラゴンだな。
よし、もっと食べろ。それだけじゃ足りないだろ?
どんどん追加していいからな」
「ッス!」
「おおっ!これでもう1食分浮くぜ!」
「キース、お前なぁ。
ランチで食い溜めとか、そこまで金に困ってるのか?
賭け事は程々にしておけよ?」
「おいおい。そんなモンに手は出さねぇよ。
単純に、今月は支出が嵩んじまってさぁ」
「何の支出だ」
「何のって、アレさ。
『交際費』だよ───ほら、分かるだろ?」
「その成果は?」
「見事に惨敗だ。悉く全滅。
ロマンスのロの字も残ってねぇよ」
「───腹一杯、食っていいぞ。
デザートまできっちり、責任持ってやる」
「すまねえ!恩に着るぜ!」




