25話 無限の国 04
最後の一音を、紡いだ後。
それが風に乗り、遠く遠くへ運ばれ、聞こえなくなるまで。
唄い手は目を閉じたまま、祈りを捧げるように手を合わせていた。
「────悲しい、歌だな────」
「・・・はい」
指を解き、振り向く天使。
「でも、悲しいけれど。とても美しい歌です。
わたくしが知っている歌の中で一番、素敵です!」
「そうか・・・そういうもんかな」
「楽譜を見てみますか?ヴァレストさん」
「あーー、俺は譜面なんて読めねぇよ」
「『見れば分かる楽譜』、ですよ?」
「??」
「それでは────────はい!」
胸の前に手の平を合わせ。
ぱっ、とそれを離すと。
「手品か?」
「手品ですよー」
取り出した物の重さに、少しぐらつきながら。
天使は『それ』を、悪魔へと手渡す。
「・・・油絵??」
「絵画も、わたくしにかかっては『楽譜』同然です」
「いや・・・しかし・・・。
これが譜面を表しているのか?本当に??」
「ええ。
これを持ってきてくれた方は、わたくしと握手して、嬉しそうに帰ってゆきました」
「『歌姫ファン』の、鑑だな」
「その方が仰るには。この絵を描いたのは、人間の男性だそうです」
「・・・・・・・」
「第1級牢獄へ連行された時。
とっさに手品で隠せた楽譜は、これ1枚だけです」
その時の事を思い出したのか。
天使の表情が、少し曇り。
けれどまた、まばゆい輝きを取り戻した。
「────わたくし!
どうしてもこの絵を描いた人と、お話がしたいのです!」
時代を経て光沢を失った、木枠の中。
翠の眼で丘を見上げる、巨大な灰色の獣。
背を反らし咆哮する様と、怯え飛び立つ鳥の群れ。
ヴァレストの目には。
陰鬱な色を張り巡らせる、『魔力線』の渦が見えていた────




