263話 強いな、松村 03
───経験は、人を強くする。
これは何も、”失敗から学べ”だの、”積極的に挑戦しろ”という事ではない。
書店に並ぶ『少しも実用的でない実用書』と同じ内容を語るつもりはない。
人間というものは、意外と簡単にできている。
特定のアウトプット、即ち『結果』を説明するのがどんなに困難であろうと。
インプット、つまり『原因側』は、呆れるほど単純で構わない。
───経験は、人を強くする。
だからこれも、深く考える必要なんて無いのだ。
ごくシンプルに。
『ただ、経験すればいい』。
何事も慣れである。
突発的な事態、理不尽な現象、顎が外れそうな大不運。
どんな事も、必ず慣れる。
泣き喚こうが、懸命に対処を試みようが、それらは少しも次回に影響しない。
全ての悲劇は、ただ体と心に蓄積される。
そして自動的に。
勝手に慣れてゆく。
───約一年ぶりのアキバ。
残念ながら、正式な休暇ではない。
任務明けに速攻、マニラから飛んで来た。
移動日を無理にやりくりしたスキマ時間だから、明日イチでまた雲の上だ。
それでも。
ようやくの、夢にまで見たアキバ。
メインのトレカ購入先、A店。
ここでは5年近く前、事故でサングラスが外れてしまい、大きな騒ぎとなった。
不幸である。
『日本語の上手い外人さん』がたちまち、『イービルアイ』と呼ばれる事に。
発音的に、間違っているけどな。
しかも今回、まだ僕を憶えている奴がいたのは驚きだよ。
ヒソヒソとそれを、新参ぽい客に教えてんなよ。
しっかり聞こえてるぞ。
品揃えが偏っているが、掘り出し物もある、B店。
レイアウトは変わったものの、相変わらず需要無視の独自路線。
大会も開催されていないようなマイナーどころを探すには、ここが一番。
しかし、フランス語版だけで棚1つ置くのは、流石にやり過ぎだろう。
ここは日本だぞ。
誰が買うんだよ。
もしかして、経営者がフランス人とか、そういうオチか?
C店。
雑貨買取店との併設だったが、丸ごと無くなっていた。
まあ一年も間が空いたら、そういうものか。
アキバは、常に変化する街だ。
D店。
ちょっと遠いな。
結構な降りの雨だし、長く歩いて濡れたくない。
これ、うまく近道とか出来ないのか?
ちょっと試してみよう。
方向感覚は悪くないほうだから、多分何とかなるだろ。
いつ来ても閉まっているラーメン屋の横。
普段はここを通り過ぎるが、曲がってみる。
・・・・・・。
こっちは全然、人が歩いていないな。
日本だから良いものの、他の国だったらこういう道は絶対に入っては駄目だ。
明らかなスラムなら、わざわざ踏み込みやしないからいいのだが。
『なんとなく人通りが無い場所』というのが、実は最も犯罪に巻き込まれる。
ああ、でも、日本だって油断はできないか。
東京なんて、大勢の外国人が入ってきているし。
不法滞在かつ犯罪上等な奴等も、それなりにいるだろうな。
───お!
こんな所にも、トレカ屋があるのか。
凄い立地だ。
普通はこんなの、気付かないぞ?
何でこんな場所で開業しようと思ったんだ?
この辺り、そもそもビルさえ無くて、平屋建ての社屋ばかりなのに。
まあ、行った事のないショップを開拓するのも悪くない。
とにかく入ってみよう。
客入りが悪そうだからその分、とんでもない物が売れ残ってたりするかも。
若干の期待を胸に僕は、《カード・ピット》と看板の出された店へ入り。
───突然、閉じ込められたのである。




