261話 強いな、松村 01
【強いな、松村】
爆笑モノの漫画を読んでも、笑い声を上げたり、表情を変えてはならない。
0カロリーの炭酸飲料をガブ飲みしても、ゲップを出してはいけない。
それは接客マニュアルにこそ、記されていないが。
記すまでもない、当然の事である。
(・・・しっかし、暇だな・・・)
テンチョーは週刊コミック誌をテーブルに放り、欠伸を噛み殺した。
分かり切った事ではあったが、相変わらず客は少ない。
昨日からの土砂降りは収まれど、それでもまだ雨は続いている。
こんな天気じゃあ余計に、客なんて来やしない。
今日とて店に入ってきたのは、片手で数えられるほど。
しかも全員、見るだけ見て何も買うことなくお帰りだ。
(今月の売り上げ、どうなるんだろう)
勤務の度、1時間に1回くらいは自問している。
もうこれは癖だし、意味が無いとも分かっているが。
それでも極稀に、”何とかしてみせる!”、という心の声が返ることもある。
まあ───結局どうにもならず、毎月厳しいのは不動の事実だ。
しかし立場上、気にせず適当にやろう、という訳にもいかない。
テンチョーは、店長である。
本名は秘密だ。
名乗る必要が殆ど無い。
初代テンチョーから店を引き継ぎ、今年で4年目。
サトウとヤマモトという店員達と自分、3名の交代勤務で廻している。
ここら界隈では、立地的に端のほうだ。
隠れた名店でも穴場でもなく、ただの『知られていない店』。
常連なんて呼べるような客も、当然少ない。
それに加え、営業時間も特殊だ。
閉店21時はともかく開店が13時なのは、同業の中でもこの店だけだろう。
ぶっちゃけ、遅過ぎる。
”やる気あるのか”、と呆れられるレベルでひどい。
しかし、これは初代が経営していた頃から続く伝統である。
───有り体に言うと、関係者全員が『超・夜型生活者』で。
───午前中に開店だと誰も起きれず、出勤できない。
ネトゲとか、ネトゲとか、あとネトゲとか。
この世には色々と、素晴らしい娯楽があるのだ。
稼ぎになるどころか、課金で散財するタイプの、非常に厄介な遊戯だが。
それにどっぷり浸かっている、『準廃人級』のプレイヤーなのだ。
店長の自分さえも。
ワンオペ勤務の後に2日間休み、という勤務体制が、更にそれに拍車をかける。
当然その休日は、閉じ籠もってネトゲ。
ほぼ寝ないで遊び続けた挙げ句に10時開店とか、どだい無理な話である。




