260話 危険な宿題 04
「『9分間』って、知ってるか?」
「・・・聞いたこと、ない。『毒』?『くすり』?」
「強力な『麻薬』だよ。人間じゃなくて、悪魔用の。
1000年くらい前に、地獄で出回ったやつだ」
「9分だけ、きくの?」
「いいや。
一日のうち9分間しか『戻ってこれなくなる』、が正解だ」
「!!」
「しかも、1度服用すれば、ほぼ永久に効くらしい。
10年経っても、20年経っても、毎日9分の間しか意識が戻らない。
あとはずっと、『幸せな世界』に行ったきり。
死んだように眠ったままだ」
「まって。それは・・・ありえない。
こうかが、強すぎ。
いぞんして、リピーターにしないと、麻薬としてせいりつしない」
「だろうな。
そのせいなのかは不明だが、事実、ごく短期間で裏市場から姿を消した」
「・・・それを、わたしが作ればいいの?」
「作らなくていい」
「え?」
「作る必要は無いから、『作り方』を解明してほしいんだ」
「・・・現品は、ある?」
「無い。結構探し回ったが、情報の1つさえ見付からなかった。
とっくに全て、破棄されているのかもしれないな」
「・・・・・・」
「まあ、お前なりに”こうやったら作れる”、ってのを考えてみてくれ。
答えは出ても出なくてもいいさ。
ちょっとしたパズルを解くようなつもりで、気楽にな?」
「・・・ん・・・わかった」
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「お帰りなさい、ボス」
「うん」
アジトに戻るなり声を掛けてきた部下に、短く返し。
そのまま一直線、一番奥へ位置した『ボス席』に向かう。
普段ならここへ座るなんて、死んでも嫌だが。
いつものようにテレビの前に陣取り、ゲームをする気にはならない。
そんな事より今は、あの男から出された『宿題』に心が囚われている。
デスクの引き出しから、一度も開いたことのないノートを取り出す。
真新しいページに大きく《9分間》と記し、一度深呼吸。
そして思い付く端から、必要と思われる原料と主な作用を連ねてゆく。
その1つ1つは本当に、書いてみただけのものだ。
精査し、整合性を取り、最終的な効能を実現させるのは、ずっと後。
脳内の閃きを全て出し切ってからで構わない。
”作り方を考えてくれ”、と言われたが。
出題者が真に求めているのは間違い無く、『その先』だ。
何を一次原料として使うか。
どのくらいの比率で合成し、どうやって精製するか。
それを完全に解き明かせば、自ずと他の事も分かるはず。
何せ、特殊すぎる麻薬だ。
ありきたりの物をありきたりに使って作れるわけが無い。
稀少な原料の入手経路。
合成、抽出、精製出来る技術。
特殊な魔法を使うだろう。
特殊な設備が必要だろう。
製品として数を揃えるには、それなりの資産も不可欠だ。
───全て満たせるのは一体、誰なのか。
あらゆる毒と薬は、必ず模倣、改良される。
『9分間』がそうならなかった理由は、ただ1つ。
”特定の者にしか、作れなかったから”。
理論を突き詰め、実現に向けて絞れば絞るほど、『誰か』が浮かび上がる筈。
あいつが知りたがっているのは製法ではなく、『作製者』なのだ。
つまり、これは。
パズルの体裁をとった、犯人探しである。
おそらくだが、私に大した期待は寄せられていない。
加えて、この件を頼まれたのも私が最初ではないだろう。
ならば、これまでに依頼された者達は、どうなったのか。
答えを出せずに投げ出したか。
今この瞬間も頭を抱え、悩んでいるのか。
それとも。
───気付いてしまって、分からないふりをしたか。
これは、ぞくぞくするほど面白い遊びだ。
買ってきたゲームより、よっぽどいい。
ここは地上なのに、地獄の底に立っているようなヒリヒリとした緊迫感だ。
それでなくとも、私の気持ちは昂ぶっている。
ポケットに隠した綺麗なペンダントを思い出し、とても嬉しく感じている。
この『宿題』、必ず解いてみせよう。
真相を暴き、あの男の鼻先に突き付けて。
特大級の驚愕を、貰ったプレゼントの『お返し』にしてやろう。
黒竜め。
紳士を気取るには、まだまだ精進が足らない。
ああいう中途半端な青臭さも、 それほど嫌いではないが。
───ん。
カルロゥが、イチゴの載ったケーキを用意しているな。
さては、私が仕事をし始めたと勘違いし、その御褒美というところか?
わざわざ買ってきたのだろうが、残念だったな。
私は何があっても、仕事などしないぞ。
これは大切な、『とても危険な宿題』なのだ。
まあ、『ボス席』まで来られたら即座にバレる事だが、問題は無い。
二十六位の大悪魔を侮るなかれ。
皿を置いた瞬間、手掴みで食べてやる。
お前が認識出来るのは、その残像だけだ。
”あー”も”うー”も、言わせはしない。
けれど、そのおかしなハーブティーは要らないぞ。
お前が責任を持って、全部飲め。
それか、観葉植物の鉢にでもくれてやるがいい。




