259話 危険な宿題 03
「担当者レベルでの『事後処理』はもう、全て終わってるんだよな?」
「うん」
「俺は関わってないが、うちの連中、相当吹っ掛けたんだろ?」
「まあ・・・うん」
「そのお詫び、と言っちゃあなんだが。これ、受け取ってくれないか」
「?」
ドラゴンは、洞窟に財宝を貯め込む。
───というのは、概ね半分だけ、正しい。
実際のところ、それをやっている連中は年々減ってきている。
何せ、肝心の洞窟が無いのだから、どうにもならない。
種の個体数も減少しているが、それより尚、洞窟のほうが足らないのだ。
琴線に触れるような物件は大抵、人間達の観光名所と成り果てている。
やっと穴場を見付けても、『動画配信者』なる輩が度々突入してくるらしい。
住むのも隠すのも、東洋の奥地以外ではまず無理だろう。
そして、そこはすでに中国系の『龍』が占拠済み、ときたもんだ。
───なら、どうするのかといえば。
手段は2つ。
悪魔が斡旋する『地獄にある洞窟』を借りて、賃貸料を払うか。
物理的な洞窟スタイルをすっぱり諦め、魔法で別空間を作り出すか。
───俺の場合、迷わず後者を選択した。
実家を飛び出して以来、地獄へ戻る機会は少ない。
地上で生きてゆくと決めた以上、どうしても現代事情に適応する必要がある。
こればかりは、好みとか言ってられないのだ。
『別空間方式』に関しては、竜族の中でも賛否両論だ。
”これだから最近の若い奴は”、なんて説教してくる年寄り竜もいるが。
”だったら、お前の巣穴を空けろよ!”、と若い世代の猛反発を招いている。
俺も若いが、そんな不毛な争いに身を置くことはしない。
文句を言う暇があるなら、さっさとやれる手段を取ればいいだけ。
俺は、精神的に成熟しているドラゴンなのだ。
まだ若いんだが。
とまあ、そんなわけで異空間にある、俺の『財宝部屋』。
こういうのを人間は、《クラウドに上げる》だか《下げる》だか言うらしいが。
そこに手早く魔法でアクセスして、目的の物を捜索開始だ。
正直ここ数百年、整理が全くできてないんだよな。
あれはどこに置いたっけ。
うむむ。
多分、年代的に考えれば、この辺りの『地層』に───
いや、こっちのほうか?
「───よし、見付けたッ!これだこれ!」
やっと探し当てたそれを『向こう側』から引っ張り出し、テーブルに置き。
一応、間違い無いか箱の上蓋を跳ね上げて、中身を確認。
それから180度回して、リーシェンの方へ向ける。
「・・・えっ」
表情に乏しい少女の顔が、本日一番の大変化を見せた。
「ブロウフレア!?」
「おう」
「これ、がいうちゅうでしか、見つかってないってゆう!!」
「その5つの内の、1つだな」
「どうやって、手にいれて・・・」
「昔、オークションで競り落とした。綺麗だろ?」
「う、うん・・・。でも、こんなの、ほんとにいいの?
凄く、きちょうなコレクションを」
「確かに竜は『収集家』だがな。こいつはコレクションとは違うぞ?
プレゼント用に保管してたやつなんだよ」
「贈ろうとしたあいてに、ふられた?」
「違う!失礼な事を言うな。
”特定の誰か”じゃなくて、”似合う誰かと出会った時”の為に落札したんだ」
「え?あいてを、きめずに?」
「そう。未来への投資、ってやつさ。
俺はそういうのを、常に幾つかストックしてる。準備に抜かりは無い」
「・・・おまえ、ろりこんじゃないけど、もっとやばい何かだ・・・」
「ヤバいって言うな。
とにかくまあ、話はいいから。それ、付けてみろよ」
「う」
神妙な顔付きで、リーシェンが箱から中身を取り出した。
銀の鎖の、ペンダント。
透明で大きな鉱石の中に輝く、ホタル火のような3つの蒼。
それらが軌跡を残しつつ、ゆっくりと内部を周回する神秘の光景。
この幻想的な美しさこそ、『蒼炎回転石』最大の特徴。
一騎打ちで競り勝ったはいいが、相手が評議会の大物議員で。
その後しばらくは命を狙われまくったという、思い出の一品である。
「おおっ!やっぱり俺の見立ては正しかったな!
凄く似合ってるぞ、リーシェン!」
「・・・」
「うむ、完璧だ!一段とまた可愛くなったなぁ!」
「・・・おまえ・・・へんたいだ・・・」
「褒め言葉として受け取っておこう!」
顔を真っ赤にして言う罵倒なんて、少しも痛くない。
薔薇には棘があり、それも含めての『美しさ』。
同様に、女性の言葉には『愛』があり、時に辛辣さを纏うこともある。
男は、そのほろ苦さを優しく受け止め、辛口のバーボンで飲み込めばいい。
そんな場面を何度も経験している者こそ、本当の紳士。
つまり、俺のことである。
「でも・・・これ、とんでもなく高い・・・」
「『プレゼントの値段が』なんて、野暮はよそうぜ。
受け取ってくれなきゃ、俺も困っちまう」
「・・・・・・」
「まあ、それでも気が引ける、ってんなら───ううむ」
腕を組み、しばし考える。
どうしたもんかなぁ。
情け無いから、受け取り拒否は勘弁してほしいところだぞ。
「───ええと。
奈落の蜘蛛って確か、『毒』に詳しかったよな?」
「うん。毒も、くすりも、お手のもの。
いっぱい作れるし、えるふの弟子だって、いるし」
「エルフの?」
「天使がつかった、せんじゅつどく、の中和をけんきゅうしてる」
「そうか───じゃあ忙しいのかもしれないが、1つ、頼み事をしたい」
「??」
首を傾げるリーシェンの胸元で、ペンダントの蒼い光が揺れた。
『蒼炎回転石』は、幸運の象徴として名高い。
”発光する点が多いほど、更に運気が高まる”、とも言われている。
俺自身はこいつを手に入れた事で、酷い目に合ったわけだが。
可憐な女性が所持するなら、きっと最大限に効果が発揮されるだろう。
───案外、あっさりと『答え』に行き着くかもしれないな。
俺はネクタイを緩め、ソファの背にだらしなく体を預けて。
軽い感じを演出しながらも、慎重に口を開いた。




