254話 主と、獣と、ぬいぐるみ 05
『それじゃあ、いきますよーー? ・・・3、2、1、はいっ!
たからばこーはー 冷蔵庫ーー』
『何でもあってーー 何でも作れーるー』
───え?
───誰だが知らないが、歌い出したぞ??
『描かれた景色ーはー 過去のことー』
『苦しいことはー 必ず終わるよーー』
何だろう、僅かだが雑音ぽい音も混じっているような。
これの発信源は、どこか遠くなのか?
それをラジオみたいに、オレが受信してんのか?
『サラダに ぱすたーー パンケーキーー』
『いつだってー なりたい自分に 変身だーー』
『がんばれーー ゼラさーーん』
『たからばこーー 開けるんだーー』
『がんばれーー ゼラさーーん』
『これからーー 進むんだーー』
───うん。
───なんというか、『手作り感』満載の曲だな。
歌自体はかなり上手いし、美声だと思うが。
ただし、震えがくるほど歌詞にセンスが無い。
あと、そのタンバリンな。
どこが『拍』なのか、さっぱり分かんねぇよ。
前衛音楽ってヤツか?
それともオレが知らないだけで、こういうのが流行ってるのか?
とにかく。
この『おねーちゃん』は、オリジナル曲を歌っちゃいけないタイプだろう。
誰かがきちんとプロデュースしてやらねぇと、輝きを活かせない。
このままじゃあ、ヒットチャート上位には食い込めないぞ。
「・・・なぁ。お前にも聴こえてるか?」
”ア───アァ───”
何時の間にか、激しかったゼラの呼吸音が落ち着いている。
微かだが、ようやく応えが返ってきた。
「これ、お前が言ってた『丘の上の歌姫』じゃねぇか?
イルファって娘の次の、新しい歌姫さん?」
”───チガ、ウ”
『がんばれーー ゼラさーーん』
「ふうん・・・でも、何かお前の事を歌ってるぜ?
『がんばれ』って繰り返してるし」
”アア───ソウダナ”
『砂糖と塩をーー 間違えたーー』
「!?」
”──────”
お。
今、ゼラの奴、笑いやがった。
ふと見れば、変質していたオレの腕が元に戻ってるな。
これは、かなりゼラの状態が改善したとみていいのか?
やっぱり、この『歌』のおかげか?
「そういや、『丘の上の歌姫』ってのは、『全て』に対して歌うんだっけ?
それなら、お前の為だけに歌ってるこの娘は誰なんだろうな」
”───ワカラナイ。
ダガ、クルシイノガ スコシ キエタ”
「そりゃあ、誰か一人でも想ってくれる奴がいるのは、幸せな事だからさ。
これで『不幸な獣』が一匹、ちょっとでも救われたかねぇ?」
”───”
戯けて問い掛けたが、沈黙。
しかし、オレとゼラは根本の部分で繋がっている。
伝わって来るのは、懐疑心と安心の混じった感情。
やや動揺しているものの、これは近年では久しい《安定状態》だ。
「歌詞にも出てくるけど、『なりたい自分』かぁ。
お前は何かさ、なりたいモノってあるか?
別の種族・・・いっそのこと、人間とかどうだ?」
”ニンゲン ニハ ナリタクナイ”
「あらま。弱いから?」
”イヤ───ヤクワリ ガ チガウ”
「うん?」
”オレ ハ ツヨイ、ガ ニンゲン ミタイニ デキナイ”
「ああ、確かにな。人間にしか出来ない事ってのは、沢山あるよなぁ」
街を作ったり、新しい文化を生み出したりとか、オレらにゃ無理だ。
良くも悪くも現実として、世界の覇者は人間。
これは強さの問題ではない。
そういうのをオレの内側から見てきたゼラの、率直な感想なのだろう。
こいつも長いことオレと一緒にいて学んだ、って訳だ。
『役割』かぁ。
結構、的を得た表現かもしれないな。
「そしたら、『やりたい事』はどうよ?」
”───オレ ガ ヤリタイコト───”
考え込む気配。
正直、ほっとした。
<人間を喰いたい>とか即答されなくて、本当に良かった。
”ナラバ───コノウタ───ハンブン、オマエニヤル”
「えっ?・・・でも、歌詞に『ゼラ』って入ってるぞ?」
”ハンブン ワケタラ、オマエモ シアワセニ ナル。
スクワレル。
キュウケツキ ガ イッテイタ”
「ああ、『それ』憶えてたか・・・うーーむ」
”チガウ ノカ?”
「いや。違わねぇよ。じゃあ、せっかくだから貰っておこう」
”アア ソウシテオケ。
ナクシタリ ワスレタリ スルナ”
「おう」
かなりインパクトのある曲だからなぁ。
その心配は無い、と断言出来るよ。
暗黒舞踊っぽいタンバリンの乱打が、今も続いてるし。
「・・・なんか、思いっ切り走りたいな」
”ハシル?”
「この歌のせいか、無性に体を動かしたくなってきた。
そうだなぁ・・・ひとっ走りして、会いに行くかね?
オレ達に有り難い御言葉をくださった、『領主様』にさ」
”リョウシュ サマ?”
「ファリアだよ。お前『も』結構、好きだろ?
そろそろ名前憶えろよ」
───さあて、そうと決まったら。
狼形態へ変わる前に、胃の中に残ってる薬を吐き出さなきゃな。
そんで、水をガブ飲みして薄めとけば、何とか走れるだろ。
いや、待てよ?
ここはラリった勢いで馴れ馴れしく接して、あわよくば───!
”ヤメロ”
「あいよ」




