253話 主と、獣と、ぬいぐるみ 04
人喰いの獣として、この世に生まれた。
それは、ゼラのせいではない。
丘の上の歌姫は『呪い』を受け入れ、息を引き取った。
それは、ゼラのせいではない。
どれだけ生きても、人喰いで。
どんなに堪えても、本質は変わらず。
それだって、ゼラのせいなんかじゃない。
───だが、現実だ。
───そしてオレは、お前に人間を喰わせる訳にはいかない。
意識と動かせる体が残っている内に、領地から出なければ。
遠く、遠くへ。
出来れば、世界の『端っこ』へ。
もうそんな場所なんて、無いかもしれないが。
哀しいなあ、ゼラ。
昔のお前も、こんな気持ちだったんだな。
「ちくしょう・・・オレもお前も、生まれてこなきゃ良かったなぁ」
口にすれば、殊更に涙が溢れる。
立ち上がろうとして、呆気なく膝から崩れた。
再度試みるが、今度は転倒だ。
ヤベぇぞ、これ。
何とかして、一刻も早く街から出ねぇと!
匍匐前進のように這いずり、部屋の出口を目指す。
床に突いた両腕の肘から先が、おかしなことになってる。
『人間形態』でも、『狼形態』でもない。
多分、『ゼラの脚』になりかけている。
人間を襲う為の。
殺し、引き裂く為の。
そして、油と何かを混ぜたような、鼻につく匂い。
───このままじゃ、間に合わない。
───ガレージまで辿り着いて、車に乗って。
───それから───
はは!
『それから』、何だって?
この腕で、どうやって運転すんだよ?
もう、ハマりじゃねぇか。
どうにも出来ねぇよ。
ロクに掃除してない、ざらついたフローリングの床に頬を付け、溜息。
───こりゃあ、ファリア呼ぶしかねぇな。
シオラ婆さんによれば、休眠期が明けたらしいし。
渡されている『非常用連絡』の術符を使えば、すぐに来てくれる筈だ。
事情を話せば、ゼラごと殺してくれる。
『領主』として、顔色一つ変えずに。
そんでもって、後で悲しむんだろ。
誰にも気付かれないように。
誰にも顔を見せないように。
オレとしては、そういうのが一番嫌なんだけどな。
───だが、もう他に手が無い。
───これが最後、決断の時だ。
左腕、肩の少し下あたりに噛み付き、思い切り肉を剥がす。
薬が廻ってるせいで、大した痛みも無い。
確かここに、例の『符』を隠して───
シャリン。
小さな、金属音。
パン、パパン、シャリン。
また聴こえた。
「あ?」
何だ、この音。
聴覚からじゃなく、オレの内部で『それ』が鳴っている。
けれど、ゼラの立ててるものじゃあない。
シャシャシャン、パン、パン、パパン。
シャリン。
───ええと。
───これって───タンバリン、か??




