251話 主と、獣と、ぬいぐるみ 02
物心が付いた時にはもう、両親は死んでいた。
それは、オレのせいではない。
死んだ親父は前の族長で、皆からひどく恨まれていた。
それも、オレのせいではない。
黒狼の一族の中、自分だけが銀色の毛並みだった。
それだって、オレのせいなんかじゃない。
───だが、現実だ。
遠縁の家の預けられて、コキ使われるのも。
与えられる飯が、オレより歳下の奴の半分しか無いのも。
”何かの拍子に死んでくれたらいいのに”、と聞こえよがしに言われるのも。
オレにはどうする事もできない、けれど、これこそが現実だった。
嬉しい事も、楽しい事も知らない。
笑った事もない。
ただ、下を向いて苦しみに耐え続ける。
そういう毎日だった。
”アイツは、次の狩りの時に連れ出して、森の奥で始末しよう”
偶然それを聞いてしまった時。
当然だがオレには躊躇する理由も、誰や何に対する未練も無かった。
行き掛けの駄賃とばかりに一族の秘宝を掻っ攫い、その日のうちに脱出。
幾つもの山を越え、走れるだけ走って逃げて。
行く当てのない、放浪生活が始まった。
───懐に抱いた包みの中身は、親指の先ほどの宝石。
《これを口にしたまま喰い殺されると、相手の力を奪える》。
そういう伝承の代物。
”これがあれば、滅茶苦茶強くなれるんじゃねぇか!?”
最初は単純に、そう考えていたのだが。
何故こんな物が、いつまでも使われないまま残されていたのか。
大して頭の良くないオレでも、3日目の晩には気付いてしまった。
───喰い殺される、だと?
とんでもなく強いヤツに喧嘩を売り、殺されるのは簡単だが。
獣狼族なんて、誰が喰うんだよ。
しかも、どれくらい喰われりゃいいんだ?
半分くらいか?
完食されないと駄目なのか?
かと言って、オレよりも弱い熊やジャガーに喰わせたって、仕方が無い。
じゃあ、何にすりゃいいんだよ?
───何年も彷徨い歩き、もう宝石の事なんか忘れかけていた時。
───オレは、とある山中で『それ』と出会ったのだ。
オレより巨大で、オレより圧倒的に強くて。
狩人らしき人間を3人ほど薙ぎ倒し、頭から喰らっている『獣』に。
そいつはオレに気付いて、唸り声を上げた。
あまりの迫力に腰が抜けかけたが、これこそ好機だと確信。
うおお、いいじゃねぇかよ、こいつ!
今まで出会った中でも、ダントツだ!
これよりヤバいのなんて、いやしねぇよ!
人間を喰うなら、獣狼族だってイケるだろ、多分!
───勇気を振り絞り、オレはその『獣』に身を捧げたのだが。
───それで全てが上手くゆくほど、甘くはなかった。




