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23話 無限の国 02 〜Sound Link


【無限の国 〜Sound Link】



 丘の上の 寂しい木小屋

 吹き下ろす風に託した 彼女の旋律



“────白銀の星屑よ”


“暗き夜にも希望を灯す 再帰の円の輝きよ”


“────今日という日 多くを失い悲しむものに”


“項垂れ疲れ果てた 数多(あまた)の後悔たちに”


“────ありし頃の無垢なる夢を 戻し給うことを”


“終わらぬ旅を包み彩る 深き安らぎとなり”


“────彼等をまた歩ませる 新しき力とならんことを────”




 眠れぬ夜は 外に出て

 干し草の上に寝転がりながら 空を見るんだ



 さわさわと 風が前髪を揺らし

 ふわふわと 心が自由になって



 聞こえてくるのは 歌姫のSerenade(小夜曲)



 おれの父親も

 じいさんも


 そのまたじいさんだって おれと同じ


 1人になりたい夜は いつだって

 ここへ来て 星と月を見上げる


 歌声に耳を澄まし 長い長い時間

 気が済むまでこうやって 色んなことを考える



 うちの男達は みんな同じなんだ


 おれに息子が出来ても こんな時は

 2人とも 離れ離れに横たわって


 別々の 静かで不思議な時間を過ごすんだろうな


 きっと




 ────墨色に染まった 放牧地の向こう

 丘の上に 微かな灯りが1つ


 歌姫は毎日 そこで祈り 歌い

 おれたちの村には 豊穣と息災が約束される



 じいさんのじいさんが聞いた歌

 今 おれが口ずさんでいる歌


 彼女は 神様のように長生きなんだろうか


 それとも 子を産み育てながら

 この変わらない歌を 絶やさぬように守っているのだろうか



 彼女のこと おれは何も知らないし

 村の長老だって 分からないと首を振る



 ただ

 最近はみんな 戸惑っているんだ


 歌姫の歌が 少しずつ

 ほんの少しずつだけど 日毎に冷たく

 哀しくなっているって



 年寄りたちは 村の未来を憂い

 畑を耕すものは 不作の前兆だと囁く



 ああ

 おれだって みんなが幸せで

 食うに困らないなら それにこしたことはないけれど



 1番心配なのは

 慣れ親しんだ歌の ちょっとした違いなんかじゃなく


 彼女自身

 顔も見たことのない 彼女自身のことなんだ




 ────丘の上から来た風よ


 少しの間でいいから お前の仲間を押しとどめ

 この音を伝えてくれないか



 おれ

 草笛なら 自分でも大した腕だと思うんだ


 そりゃあ 彼女の歌に比べたら

 つたない子供の遊びみたいなもんだけど


 歌い続けるってことも

 牛や羊の世話みたいに 結構疲れるはずだから



 ────なあ 風よ


 せめて切れ端だけでも

 この音を届けてくれないか



 それで彼女が元気になり

 1人きりじゃないって 気付いてくれるなら



 おれの胸の中

 どんな不安も悲しみも ありはしないんだよ────


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