22話 無限の国 01 〜言葉の意味
【無限の国 〜言葉の意味】
いつからなのか、分からない。
どうしてなのかも、分からない。
意識────自己。
ジブンというものを知覚する事。
それが全ての始まりと言うなら。
生まれたのは正に、「その時」なのだろう。
ぼんやりと曇った視界。
黒く小さなものが背を向け、ジブン以外を見ていた。
《・・・・ダ・・・レ・・・?》
まだ痺れていて、思うように動かない前脚。
それでも伸ばし、声を上げる。
くるり、と。
黒いものが振り返り、睨まれた。
しゅああ〜〜〜〜!
金の瞳が、「黙れ!」と怒っていた。
「近付くな!」と警告された。
それは、とても恐ろしく。
こちらに対して興味など、僅かにも持っていないようだった。
《・・・・・・》
慌てて体を丸め、出来るだけ小さくしてみる。
声はもう、出さない。
・・・・ああ。これなら、いいんだろか?
・・・・機嫌を直して、ボクに優しくしてくれるだろか?
待ってみた。
静かに、呼吸の音さえ消して。
黒いものがジブンを見てくれるのを、待ち続けた。
周囲にあるものは、分からない。
分からないし、喋らない。
たくさんの匂いで、不安になる。
1つきりの寂しさが、ちくちくと体を刺す。
黒いものは、別に忙しくないふうなのに。
待っても、待ってもジブンに顔を向けなかった。
音を立てないでいるのに、褒めてくれなかった。
《・・・・・・》
《・・・・・・》
《・・・・・・》
《・・・・・・》
《・・・・・・》
にゃおう。
とても狭くて、苦しい時間を破り。
音が響いた。
あ。
あああ。
久し振りの声!
黒いものの声!
やっと、寂しいのが終わる!
やっと、新しいことが始まる!
固まって痛む身を起こし、呼びかけた。
《ア・・ア・・・ボク・・・》
けれど。
黒いものは、それでも優しくなかった。
軽やかに何かから降りて、視界の隅へ向かう。
ジブンを見ないまま。
────ぱたん。
生き物ではない音がして、視界が割れた。
そこから、知らないものが入って来た。
《・・・ア・・ア・・・》
「ただいま、ルクレチア」
後ろ脚だけで歩く、新しいもの。
それは何か喋ったが、相手はジブンではなかった。
声が意味することも、理解出来なかった。
《・・・ア・・アア・・ア・・》
悲しくて。
苦しくて。
ただ、助けてほしかった。
少しでいいから、教えてほしかった。
ジブンはいったい、何なのか。
せめて、何をすればいいのかを。
《・・・ア・・・アア・・》
ここにいるよ!
ここにいるよ!
啼いた。
コツコツと、それが近付いてきて。
ジブンの頭が、軽く撫でられた。
《・・・ア・・・》
「さあ、出て行きなさい」
《・・・アア・・》
「あとは、君の好きなようにしたまえ」
《・・・・・・??》
何も分からずに。
知らないままで、諦めた。
私は、書く時にかなり感情移入するタイプです。
だから、これを書く際には苦しみました。




