193話 Danger Zone 06
「じゃあ、そろそろ呼んでもいい?」
「ハッ・・・ハイ!」
「ウチには、沢山いるんだよ?みんな男のコなんだけどね。
───お〜い、お客様だよー。
こっちにおいでー」
炎の悪魔の呼び掛けから、呼吸3つ分ほど経った後。
扉の下部に設けられた穴を潜って、リビングへ姿を現す来訪者。
茶、黒、白の3色が鮮やかな、やや長毛の猫だ。
扉から5歩進んだ所で、その脚は止まり。
薄い金の瞳が、じっとこちらを伺っている。
「あら、ブライアンだ!
珍しいねー、あんたが最初に来るなんて」
”まあね、そういう気分の時もあるさ”
ウインクするように、器用に片目だけ閉じてみせて。
それから、ブライアンと呼ばれた『彼』は、私に鋭い視線を向けた。
”───おい、お前。ジロジロと見るな”
「・・・えっ?あ・・・すみませんっ!」
慌てて目を逸らしたのだが。
強力な磁石に引きつけられる金属のように、どうしても視線が向かってしまう。
今までに出会った猫は、すぐにみんな逃げてしまって。
こんなに近い距離まで来た事なんて、1度も無い。
心臓がバクバクと激しい鼓動を立てて。
ちらちらと、何度も視界の端に『彼』を入れては外し、入れては外し。
”だから、見るなって・・・・・・まあ、いいか、それくらいなら。
全然興味が無いフリをされても、プライドが傷付くしな”
ぺたん、とカーペットに座り込んで。
ブライアンは前脚の先を繕い始める。
”・・・オレの名前は、今聞いた通りだが。お前は、誰だ?”
「!───セルディオル・アルディ・カインド、です!」
”大きな声を出すな。もっと小さくても聴こえる”
「はい」
”・・・何でオレが今『毛繕い』しているか、分かるか?”
「───いえ」
”素人感丸出しのお前に、特別サービスで解説してやろう。
これはな・・・不安を解消させる為だ”
「不安?」
”だって、そうだろう?
オレには、お前がどんなヤツなのか分からない。
『客』ではあるが、どのくらいの付き合いをするべきなのか、さっぱりだ。
・・・そういう心の動揺を鎮める意味での、『毛繕い』だぞ?
勘違いするヤツが多いが、これはリラックスしてる訳じゃないからな?”
「はい」
”・・・怖いのも、どうしたらいいか迷うのも、お前だけの話じゃない。
猫達だって、同じなんだ。
まずはその事を頭に入れて、絶対に忘れるなよ?”
「───はい!」
”うるせぇ”
───猫だって、同じ。
呼んだら来てくれるだろう、とか。
目が合ったから、触らせてくれるだろう、とか。
私のそんな思い込み、一方的な行動が、これまで何匹の猫を傷付けたのか。
愛らしく、美しいから触れ合いたい。
早く、仲良くなりたい。
けれど、それだけでは足りないのだ。
───どれだけ猫の気持ちに、寄り添えるか。
───尊重できるか。
ブライアンの言葉が、ゆっくりと胸の奥底に沁みる。




