191話 Danger Zone 04
「・・・何故、こんな事に・・・」
独り言を言う趣味は無いが、思わず口に出た。
そうでもしなければ、平静を保てない。
いや。
すでに私は、平静とは言い難い。
両脚が震え、膝に力が入らない。
少しでも気を抜けば、涙を流してしまう程の恐怖。
こんな馬鹿な話が、あるか。
こんな恐ろしい状況が、あるものか。
これは。
まるで、これは。
「・・・私に、『死ね』というのか・・・」
ロンドンから遥か北西、300マイル。
カーナーヴォン城を越えて、更に北へと飛べば。
ウェールズの北端に位置する町、クマイスがある。
そこから、東に外れた山中。
というかほぼ頂上付近に、ログフォルド推薦の建物が存在していた。
ここを訪れるのは初めてだが、ここが何なのかは良く分かっている。
当然だ。
地上勤務をやっていて知らない天使など、ただの1名もいないだろう。
───”行ったら死ぬから、近づくな”
これは。
この事はロンドンとは違い、休戦条約文に書いてある訳ではない。
その他の文書にも記載されておらず、公に命令されてもいない。
完全に、口伝だ。
それがあまりに広まりすぎて、もはや『常識化』しているのだ。
───”出くわしたら、焼かれて死ぬぞ”
ここ一帯がウェールズと呼ばれるより以前から、誰もが知っており。
けれど、どんな資料にもそれは書かれていない。
全く言及されていない。
そうする事を上層部が選択した理由は、明白だ。
この地に関して、僅かにでも触れてしまえば。
『ここに居座っている者を排除出来ない』と、認めることになってしまう。
何百名で、押し寄せようが。
何千年かけようが。
───炎の悪魔には、決して誰も勝てないのだと。
そんな地獄へ紹介状付きで寄越してくれた親友、ログフォルド。
彼が今、ここへ居たならば。
100を超える回数、力一杯その頬を平手打ちにして。
金色のリーゼントを、1本も残さず根本から引き抜いて。
号泣しながらクマイス湾に突き落とす。
そして、私も後に続くだろう。




