190話 Danger Zone 03
「───どうしたよ、セルディオル」
ぐびり、と喉を鳴らしてコーヒーを飲み。
その缶で両手を暖めながら、ログフォルドが言う。
「もしかして今日のヤツ、あんまり面白くなかったか?」
「いや、そうじゃないさ。とても楽しめたよ」
───顔に出ていたのかもしれない。
考え事をしている間は表情が固くなるのは、どうにも直らない癖だ。
しかし、彼に誤解されたくない。
『映画として』は、本当に楽しかったのだ。
その上で、何について考えていたかを、正直に話す必要がある。
こういう事を話題にするのは初めてで、多少の気恥ずかしさを伴うが。
「素晴らしいストーリーだったし、役者の演技も良かったと思う。
ただ、少し・・・『誇張し過ぎではないか』と感じる部分があって」
「んー?どの場面だ?」
「まずは、出会いの所。
作中では、カメラの寄り方や音楽で盛り上げているから、違和感は無い。
・・・しかしだね。
実際に、あんな短時間で互いの距離が縮まるなんて、あると思うかい?」
「え??普通にあるだろー?」
「いや、流石に不自然だよ。
知り合って1分以内で抱擁して、それからすぐに主人公の部屋というのは」
「互いのフィーリングが合えば、そんなもんだろ??」
「フィーリング、って簡単に言うが、君・・・」
何でもない事のように、あっさりと答える悪魔。
嘘を付いている様子ではない。
それどころか、私の疑問が理解出来ずに若干、困惑しているようだ。
これは。
これは、まさか!?
「もしかして・・・君は、ああいった経験があるのかい?」
「そりゃあ勿論」
「・・・何回くらいだい?」
「いや、数えるようなもんじゃないだろー」
「何回だい?」
「───まあ、1ヶ月に2〜3回くらい」
「そうか・・・やっぱり君は、向こう側の世界に住んでいるんだね」
「何だよ、『向こう側』って?」
「・・・」
「ほれ、何ていうかさ。通りを歩いてたりしたら、あるだろ?
視線が合って、瞬間的に”これは”ってのが」
「・・・」
「もうさ、あーだこーだと言葉も要らない、そういう雰囲気の───」
「・・・」
「おーい?セルディオル?」
「・・・」
「おーい!?」
「・・・・・・」
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「結構長い付き合いだけどよ。お前が怒ったの、初めて見たわ」
「怒ってないさ」
「いや、怒ってるだろー」
「怒ってないさ」
「とにかく───お前にその手の経験が無いのは、分かった」
「ああ」
「『もうちょっとで、いいカンジに』、っていう所までは?」
「無いよ。まったく無いね」
「うーーん。そりゃあ、何とかしなきゃいけねぇなー」
「別にいいんだよ。
未経験でも、仕事や天使として生きてゆくのに問題は無い」
「でもよー、興味があるんだろー?」
「・・・それは、まあね」
「───よし。こうなったら、とっておきのヤツだ。
『とびきりイイ所』を教えてやるから、行ってこい!」
「え?・・・まっ、待ってくれ!そんな、急に!」
「俺がよく利用してる所だから、大丈夫さ!
今、紹介状を書いてやるから!
これ持って速攻、行ってこい!」
「いや、その!・・・紹介状って、君は一緒に来てくれないのかい!?」
「今回は行かない!
こういうのはな、自分だけで乗り切って、まずは自信を付けるモンなんだよ!」
「しかし!」
「いいから!
ほれ、入り口ですぐに紹介状を渡せ!
そんで後はもう、相手に任せりゃいいからさ!
ええと、ちょっとばかり離れてるけどよー、住所は───」




