187話 夢のきっかけ 05
「なるほど、そういう事だったのか。納得出来たよ」
情け無いが、全ては俺の勘違い。
おまけに無知識で、とんだ恥を晒してしまった。
それでも、誰1人として危険な目に合っていないのなら、良しとするしかない。
「・・・ただなぁ、新し屋。
お前の『人形』は、凝り過ぎなんだよ。
あんなの上空からじゃ、本物の人間と見分けが付かないだろう」
「いやいや!あれくらいの出来じゃなきゃ、こっちも気合が入りませんや。
あっしはね、練習だろうと手は抜かない主義でして」
「職人気質ってヤツかね。新し屋は、みんなそうなのか?」
「さあ、どうですかねぇ。他の奴に出会ったら、聞いてみちゃ如何です?
大抵はあっしみたいに、新聞か郵便の配達をやってると思うんで」
「ふむ・・・あと、ドルカっていうのかい?
お嬢さんの迫真の演技にも、すっかり騙されてしまったな。
ハリウッド女優もびっくりの、名演技だったぜ」
「ええっ、ホント!?
ありがとう、おじさん!!」
うん。
『おじさん』じゃないけどな?
まだまだ、『おにいさん』なんだけどな?
「えへへ!あたし、大っきくなったら、女優になろっかなぁ!」
「おおっ!!いい口説きっぷりですねぇ、旦那!
こりゃあ、『新し屋の才能』があると見ましたぜ!」
ぬいぐるみを抱き締め、きらきらと瞳を輝かせる少女の横で、男が言う。
「褒めてもらって光栄なんだがな・・・俺の求める方向性とは、若干異なる」
「そうですかい?勿体無いねぇ!」
───ぶもおおお。
何処かで、牛の啼く声がした。
空を見上げれば、快晴だ。
綿雲が風に吹かれ、ゆっくりと流れている。
何か急に、眠気が襲ってきたな。
(さあて。そろそろ帰って、寝るとするか)
時々はここを訪れて、ドルカの様子を見るのもいいな。
将来は、本当に女優になるかもしれない。
早い内に、サインを貰っておくか?




