178話 午後の秘め事 02
『魔法』に関して、1つだけ決めている事がある。
それは。
《篠原センセに、質問しない》。
別に、プライドとかの問題じゃなくて。
センセは、あたしが『魔法使い』として進んでゆくのに賛成ではないから。
まあ、否定もされてはいないけどね。
人間として真っ当に生きてほしい、というところかな。
勝手に居候しているあたしに対して、何という優しさ!
いや、冗談抜きでセンセは、とても人間が出来ていらっしゃるのだ。
・・・悪魔なんだけど。
魔法を学ぶ、正規の方法なんてのは無い。
教科書も文献も、解説動画もありゃしない。
『解析』という強引な手段と、ひたすらな『試行』。
独学でやってるあたしの魔法は、かなり歪な筈だ。
《とにかく発動させる》を優先してるから、形振り構ってない所がある。
悪魔達からすれば、”何だこれ?”、って感じだろう。
それが『人間の脆弱さを補う為に工夫した部分』ならば、いいのだ。
馬鹿にされ、鼻で笑われようが、どーでもいい。
腹も立たない。
問題は、それ以外。
”意味は分かるが、一般的にそんな使い方はしない”、みたいな。
ネイティブにとっての常識と、独学者とのギャップ。
そこを誰かが指摘してくれたら、魔法への理解が捗って嬉しいんだけどね。
あわよくば、そのギャップを逆手に取って、という野心も無くはないし。
───篠原センセに聞けない以上、他を頼るしかない。
───『他』とは、マギル講師だ。
月イチの講座でしか接点が無いのは、痛すぎる。
あんまりにも勿体無い。
向こうがあたしをサンプルの1つとしか思ってないのは、分かってるけど。
それならそれで、こちらからも最大限に利用したい。
あたしは受講者専用のアドレスから、マギル講師へ嘆願した。
自分でも引くくらいの長文で。
現実では『超・土下座レベル』の、情熱的なメッセージを送り付けた。
実際、かなり尊敬しているから。
それを素直に、ストレートに表現した。
これでもか、とばかりに繰り返した。
───結果。
───マギル講師が、特別に対応してくれる事になった。
早速、最近仕上げたコードの一部をレビューしてもらおうと。
ファイル送信しても良いか尋ねたら、返事が来た。
《取りに行く》
素っ気無い一文。
短すぎて、怒っているのかそうでないのかも判別出来ない。
いや、それよりも。
《行く》って、ここへ来るってことだよね??
・・・慌てて鏡台へ向かい、身だしなみチェック。
あたしは、『部屋着でスウェット上下』とかいうのが嫌いなタイプだ。
例え突発的な用事があっても、すぐに外出可能な服装を心掛けている。
したがって、このまま講師と面会しても失礼は無い、と思うのだが。
・・・そうは言っても、緊張するし。
もしかして、その場でレビューしてくれるのかな?
だったら、プリントアウトしておいた方がいいよね?
よし。
印刷待ちの間に、コーヒーとかお菓子の用意をしなきゃ。
センセは診療所だから、いいとしても。
ジョニーの阿呆には、来客があることを言っておかないとね。
やらかした時には絶対、あたしも巻き込まれるからさ。
1階へ降りる為、自室を出ようとした時。
首筋にピリリ、と刺激を感じた。
(・・・ん?)
『魔法防壁』が、反応している。
『何か』が、『防壁』のすぐ側に居る。
何か、ってまあ、そんなの悪魔以外にいないんだけどさ。
講座に出るようになってから、やってないとはいえ。
元々は、悪魔と見れば手当たり次第に勝負をふっかけてた身だ。
自室や実験室のセキュリティは、かなり硬めに設定している。
(・・・もしかしてこれ、マギル講師?)
玄関からじゃなく、自室へ直接?
いや、本当に外を歩いて訪ねて来るんじゃないんだから、玄関の意味も無いけど。
一番外側の『防壁』に、接触反応アリ。
コツコツ、と。
確かめるように軽く叩く感じ。
ああ、これ、ノック的なやつかな?
”もしもし、来ましたよ”、みたいな。
(はいはい、待ってくださいね。今開けますよー)
最後にもう一度、鏡を見て襟元が乱れていないか確認したのが、悪かったのか。
セキュリティの解除認証中。
それが突然、途切れて。
(え、ちょっ)
『防壁』どころか、システムごと全部。
爆発四散した。




