16話 終炎を、手に(その8)
「いやいやいや!────待て!!止まれっ!!!」
「うん。待たない。止まらない」
「頼むから、落ち着いてくれっ!!深呼吸しろっ!!」
「うん。ほぼ冷静。さっきした」
引きずられてゆく、殲滅の邪龍。
引きずってゆく、紅蓮の王狼。
歩幅は更に大きく。
土埃と共に加速し────
「上がるぞぉーー!!土足でっ!!」
高らかな宣誓で、ヴァレストはラグビーボールのようにぶん投げられた。
「いやーー、あのスカした音のする、練習剣?
アレ持ったままだったら速攻、ドタマかち割ってやろうかと!」
「────────」
「『刀』、ってんだろ、それ?
さあさあ!ガシガシやろうぜーー!!後腐れ無く!!」
「────────」
門下生全員が帰宅し、熱の失せた板張り。
呼気も、衣擦れの音も立てず。
座して黙想していた『人間』が、立ち上がった。
痩身。
石を削ったように、彫りが深く、冷たい貌。
・・・それ以上、『その男』を表す言葉は無い。
見たままの。
見た目以外の要素が、何1つ感じ取れない。
人物ではなく、風景として。
現実ではなく、現象として。
ただ、そこに在るだけの、男だった。
「────宮坂流、後藤正臣」
「流儀なんぞ知るかっ!メイエル・ディエ・ブランフォールだっ!!」
真剣を帯刀した『人間』に。
宣言通り土足で踏み込んだ『悪魔』が応える。
「巧者三ツにて 相分れり。
────それでいいか」
「おうっ!!」
(ああ?・・・コウジャが、何だって?)
(“ある程度の腕前同士なら、三度も剣を合わせたら、お腹いっぱい。それ以上は無用”。
そういうことですよー)
(・・・それ、“おうっ!!”とか言ってる姉貴は理解してんのか?)
(さあ?どうなんでしょう?)
(つーか、やべぇっ!!姉貴のやつ、『両手で』持ってんぞっ!!)
(はい?)
しゅらん
白刃の軌跡が、初冬の空気を削いで。
正眼に構えられた。
「────いざ」
うおらああああああっっ!!
狂乱の鬨を上げ、赤い悪魔が疾った────




