162話 強き者の再起 04
「・・・ぶあっっっかじゃないの!?」
簡潔明瞭なファリアの説明を聴き終えた後。
たっぷりと『溜め』を作ってから、クライスが吐き捨てた。
「そりゃ、こーなるよ!!なって当然だよ!!
何で、『家人』の血を吸っておかないのさっ!?」
「だって、可哀想なんだもの」
「はあ!?」
「人間は、とても泣き虫で。
銃で撃たれたり車に轢かれただけで、”死にたくない、助けてくれ”と泣いて。
『眷属』にしたらしたで、100年も経たない内に、”死ねないのが怖い”と泣くのよ」
「そんなの、放っておけば何時の間にか慣れるさ!!」
「彼等じゃなくて、私が慣れないの」
興奮するクライスに対し、ファリアは冷静。
『どこ吹く風』とやらだ。
「だからって、『支配下』に置かないと駄目じゃん!?
12年も『休眠期』に入ってたら、裏切るに決まってるでしょ!?
人間って、そーゆーモンなのっ!!」
「執事は、私を裏切らなかったわ。
拷問された形跡もあったけれど。
『隠し資産』の場所について、最期まで口を割らなかったようね」
ああ・・・やっぱり、そういう事か。
俺としては、何となく予想が付いていた。
ファリアは昔から、人間に対して公平で寛容だ。
吸血鬼としては、かなりの異端と言えるだろう。
そして、先程の庭先での言葉。
Jag svär vid Gud att den här personen är ren.《此の者の潔白を、神に誓う》。
あれは、吸血鬼が人間の葬儀で用いる、儀礼の文言だ。
『人間』・・・即ち、血を吸い上げた『眷属』ではないこと。
それを当人に替わって、神に弁明していたのだ。
「たった1人の忠誠心じゃ、意味無いでしょ!?
結局、殆ど持って行かれてるじゃん!!」
「そうね」
「いや、『そうね』じゃないよ、君はっ・・・!!」
『テーブル』をぶっ叩こうとしたクライスの手が、寸前で止まり。
若干震えながら、戻されてゆく。
・・・危ない、危ない。
それ、本当にただの木箱だからな?
他のは全部壊されてたから、替えは無いぞ。
大事にしてくれよ?
「───それはそうと、クライス」
「何さ!?」
「この部屋へ入って来た時から、気になっていたのだけれど。
その格好は一体、どういうつもり?」
「あーー、これね。
今、服飾ブランドを立ち上げて、やっと軌道に乗ったトコなんだ。
僕は社長兼、広告塔ってやつだよ。
『分家』も独自で色々やらないと、立ち行かないからさー」
少し自慢気に笑うクライス。
その服装は・・・
黒地に白で髑髏の刺繍、つばの部分にリングピアスが入ったキャップ。
青味がかった白色のパーカーは、肩廻りと脇腹にオレンジで炎の模様。
ズボンもパーカーと同様だが、ランダムに幾つものファスナーが走り。
それぞれの先端からは、黒のストラップコードが伸びている。
・・・まあ、『あり』なんじゃないか?
俺の好みじゃないが、最近の流行りなんだろう、多分。
「変だし、似合ってないわよ」
「ええっ!?」
一言で斬り捨てるファリア。
流石だ、同族に対しては全く容赦が無い!
「貴方も『分家衆・筆頭』なのだから、それらしい服装になさい。
少しはアルヴァレストを見習ったらどう?」
「・・・まるっきり、マフィアじゃん」
「ああ!?何だと!?」
聞き捨てならぬ発言に、思わず立ち上がりかけ。
・・・木箱の軋みで、我に返る。
「訂正しなさい、クライス。彼は、マフィアではないわ。
敢えてイタリア風に表現するなら───」
むむ?
「Uomo D'Onore(誇り高き男性)、ね」
「ええーーー!?どっこがだよ!?」
おお!
『別称』の方の、慣用表現か!
こっちなら、俺も大満足だ。
多少のダークさを含む感じが、格好いいぞ!
「ふふん。お前の負けだな、クライス」
「負けてないよ、僕は!!
ファリアを買収したんだろ、絶対!!」
「そんな事するかよ。
いや・・・強いて言うなら、ペットボトルの紅茶か?」
「こぉの卑怯者っ!!」
「お前も飲んでるだろ、それ」




