154話 ニンゲン病患者 01
【ニンゲン病患者】
ルーベル・レイサンダーは、自由を愛している。
行動の自由。
決定の自由。
他者に迷惑をかける自由。
対価を支払わぬ自由。
行きたい時に、行きたい場所へ行く。
入場制限も、閉館時刻も関係無い。
そもそも、順番を守らない。
信号機の色など、気にしたことさえない。
欲しい物があれば持って行くし、ガラスケースに入っているならそれを壊す。
気が向けば、潰れかけた店のランチに札束を積み上げ。
気が向かなければ、高級レストランで食い逃げする。
───”自由とは、何か”。
そんな馬鹿な事は、決して考えない。
思考の末に捻り出した答えに、己の自由を縛られるのが嫌だからだ。
そして、答えが出せなければ、単なる時間の無駄だからだ。
やりたい事だけを、やりたい放題して生きてゆく。
傍若無人の、ルーベル・レイサンダー。
彼と出会った者は皆、『とびきりユニークだ!』と面白がり。
1分後にはもう、遭遇した事を後悔しているだろう。
基本的に、無礼で。
根本的に、傍迷惑。
───だが。
それも、時と場合による。
そして、今こそが『その時』で、『その場合』なのだ。
身動きの度ガタガタと傾ぐ、年代物の椅子に腰掛けて。
ルーベル・レイサンダーは、震え上がりそうな緊張感を懸命に抑え込んでいた。




