153話 逃走者の抗議 06
夕食を告げる声が聴こえたので、1階へ降りる。
案の定、「いただきます」の前に篠原センセの表情が歪んだ。
「カオル・・・君は、何をやったの・・・」
「『軽い挨拶』みたいなものよ?これから長ーーい付き合いになるんだし」
「・・・・・・」
あらら。
センセ、こめかみを押さえて俯いちゃった。
多分、凄い形相してるんだろうなー、後ろの『死神』。
ジョニーのやつなんか、壁際まで退がり、尻尾巻いて震えてるし。
何だかなぁ。
『人間にだけ、死神が見えない』のは、負けたような気がする。
───いや、実際に負けてるのかな。
おそらく、遥か昔の御先祖様達には、見えていたのだ。
悪魔も、死神も、それ以外の沢山も。
けれど、得体の知れないモノが見えるのは怖くて、怖くて。
その中でも『死神』、つまり『死』は、とびきり恐ろしくて。
だから。
人間は、『見えないことを選んだ』。
『見えない人間』だけが、『人間』として進化を続けた。
そういう方向で考えると、だ。
『悪魔が見える』あたしは、フィルター機能が半分くらい壊れてるのかな?
世の中で言うところの特殊能力、超能力なんてのも同じ理屈で。
通常以外の何かを得たんじゃなく、『失った結果』なのかも。
───うん。
そこそこ面白いけど、これは妄想レベルの話。
優先度を『最低』に設定して、頭の隅に投げておこう。
「ねー、センセ。ゴハン食べようよー。冷めちゃうよ?」




