140話 第一級・指名手配 02
「外見は年代物だったが、内側は結構、手を入れてんなぁ。
すでに『オール電化』済み───じゃあ次は、セントラルヒーティングだな。
どうだい?ここで一発、ドカンとリフォームしてみるってのは?
ウチの会社は、安くてアフターサービスも完璧だぜ?」
入ってくるなり、ぐるりと室内を見渡し。
『スーツ姿の男』は砕けた口調で、且つ淀み無くまくし立てた。
「・・・俺を前にして第一声が、それか?」
「営業なんだから、仕方無いだろ。これでも一応、驚いてはいるんだぜ?
俺みたいな『いい男』が、もう1人存在するとはなぁ!」
「それは、こっちの台詞だ」
「まあ、立ち話もなんだし。座ってゆっくり話そうぜ?」
止める間も無く、ずかずかと応接室に入ってゆき。
深々とソファに腰を沈めやがった。
「おい・・・お前、どんだけ態度デカいんだよ」
「おっと、灰皿あるじゃねぇか!一服やらせてもらうぜ」
「・・・・・・」
くそっ!
先手が取れねぇ!
なんて図々しい奴なんだ!
流れるような動作でタバコを取り出し、火を付ける男。
妙な対抗心が湧いてきて、向かいに座った俺もタバコをくわえる。
「へえ。いいライター使ってるな、アンタ」
「じゃあ、お前も買ったらどうだ」
「そりゃ駄目だ。客より高価なモンを持つのは、営業失格さ」
「客の前で吸うのは、失格じゃないのか?」
「せっかく、デカい灰皿があるんだ。堅い事を言うなよ」
悠然と煙を吐く男のスーツは確かに、高級品ではない。
だが、そのセレクトと着こなしには、唸らされるものがある。
タバコの銘柄は、昨年まで俺が愛飲していた物。
アレは、今も時々買ってしまうほど美味い。
(こいつ・・・『互角』か・・・)
俺の中で。
男の誇りを賭けた戦いが、始まろうとしていた───




