11話 終炎を、手に(その3)
「────首 が 折れ て る────」
「それは、メイエルさんが殴ったからです」
「────なん で 肋骨 も 折れ て────」
「それは、メイエルさんが『とどめ』を刺したからです」
「────────」
「はい。そういうことです」
教典破壊者。
殲滅の邪龍。
・・・過去には、三界に名を轟かせた大悪魔・ヴァレスト。
その彼は、今。
見るも無残、虫の息でソファーに横たえられていた。
「とりあえず、首から上を戻しましたよ。
呼吸は、楽になりましたか?」
「あ・・・ああ・・・すまん」
「さっきのは、ヴァレストさんが悪いと思います」
「・・・ああ。反省した────させられた」
「ううっ・・・ううあっ・・・ううっ・・・!」
部屋の隅。
豪勢な化粧台に突っ伏して、しゃくり上げる女悪魔。
これはもう、明確に『誰が悪いのか』見てとれる状況だった。
右手が握るグラスに、50.5度のウイスキーが入ってはいたが。
「次に同じ事をしたら、わたくしも叩きますよ?
いいですね?」
「・・・二度とやらない。絶対に」
「じゃあ、お話の続きですが」
ヴァレストの胸部へ銀色に輝く手をかざしながら。
天使は、静かに息をついた。
「────もう、本当に昔のお話。
天界に、たった1人の悪魔が入ってきました」
「・・・・・・」
「悪魔は、『浄化法壁』の守護者を斬り倒し。
『無限回廊』の守護者を斬り倒し。
『螺旋双城』の守護者を斬り倒し。
『開眼霊泉』の守護者を斬り倒し」
「つっこんでいいか?」
「駄目です」
「・・・・・・」
「ありとあらゆる障害を、全て吹き飛ばして。
瞬く間に悪魔は、『光輝の街』の入り口まで辿り着きました」
「・・・・・・」
「実はその悪魔こそ、メイエルさんです」
「心配するな。それだけは、しっかりと理解出来る」
ようやく身を起こす、ヴァレスト。
天使は優雅に立ち上がって、隣に座り。
茶トラの猫が、その脚にすり寄る。
「────『光輝の街』には、高位の天使が大勢います。
さすがのメイエルさんも、ここからは簡単ではありません。
しかも。
第1種聖典で武装した、『神聖報天騎士団』の登場です。
灼熱の魔炎と、轟鳴の神雷。
天はうねり、居住区は吹き飛び。
阿鼻叫喚の中。
ついに戦いは、『天界中央局』のゲート前にまで及んで。
けれど、そこでメイエルさんは、その先へ進めなくなり。
その間にも下層からは、続々と勇敢な天使達が駆け上がってきました」
「ふうむ・・・どちらを応援すべきか、決めかねる」
「────その時、わたくしは『天界中央局』の中にいました。
侵入者なんて、初めてのことです。
『悪魔』というものは、どんな姿なのか?
周囲に尋ねてみましたが、みんな慌てふためくばかり。
質問に応えてくれる者はいません。
外壁の上に登り、目をこらしましたが。
赤い炎と蒼い雷の乱舞で、他には何も見えません。
“こうなったらもう、ゲートを開けて直接!”
わたくしは勇気を振り絞り、階段を駆け降り。
高位法術のかけられた『貫抜』を目指し、ホールを走っていたところ」
「おいおい」
「突然、ゲートが木っ端微塵に!
荒い息で飛び込んできた赤い髪の女性が、わたくしの腕をとりました!」
「あーー、なんというか。よく斬られなかったな」
「・・・だまれ、ばがっ!・・・あだじはっ・・・!
かわいいものにっ・・・手をあげないっ!!」
ガンッ!!
嗚咽と共に、グラスを叩き付ける音。
「────はい!
そういう訳で、わたくしは『人質』になりました!」
「とてもよく分かる」
深く、深く。
ミッドガルドの蛇よりも長い溜息をこぼす、ヴァレストであった────




