125話 新時代の古式遊戯 09
吹き付けた怒涛の猛炎を、躱し切り。
飛び込んで来た騎士の槍が、俺の方へ伸ばされる。
───やっとかよ・・・。
お前、馬の超絶的な働きを、どんだけ無駄にしてんだ。
情けないにも程があるぞ?
とは言え、これ以上は彼に期待しても仕方無いようだ。
まあ、ここらで幕引きだな。
竜殺しの先端を、右前脚で受ける。
ばくり、と。
柔らかな果実でも剥くように、鱗が割れ。
肉が抉り裂かれた。
脳天まで、激痛に貫かれる。
反射的に出掛けた苦鳴をすんでの所で飲み込み、堪えたが。
かすっただけで、これだ。
初めてだったら、恥も外聞もなくのたうち回り、泣き叫んでいただろう。
何事も経験、って訳だな。
嬉しくはないが。
”ようしッ!!───俺は重症だ、もはや戦えんッ!!”
「・・・えっ・・・ええっ!?」
”潔く、敗北を認めようッ!!そして、王女殿下を返そうッ!!”
槍を刺したはいいが、直後に落馬しやがった阿呆の横。
姫様の鉄籠を宙から降ろし、魔法で解錠する。
黒馬からの、痛烈な視線を感じる。
『お前、ふざけんなよ!?』、と。
『決闘で手を抜くのか!?』、と。
そう言いたい訳だ。
その気持ちは、良く分かる。
分かるが、ここは空気を読んでくれ!
「ねえ、その傷、大丈夫?」
心配してくれる姫様に、余裕で笑ってみせる。
”なあに!こんなの、すぐに塞がるさ!───ほら、この通り!”
映像を早送りするような勢いで修復されてゆく、傷を見せる。
勿論、嘘だ。
魔法でそう見せかけているだけで、実際は爪の先程も治っちゃいない。
簡単に治らないからこその、竜殺しだ。
・・・いや、黒馬さんよ。
そんな眼で見るなよ。
本当は、治ってねぇんだよ。
マジで、結構な深手なんだよ。
”───さて、お姫様。色々と付き合わせて、悪かったなぁ”
「とても楽しかったわよ!」
”そいつは良かった。お礼に、ちょっとした魔法をかけておくよ”
無事なほうの脚を、彼女にかざして。
久しく使ってなかった類の魔法を詠唱。
”これでオーケー・・・『竜の加護』だ。生涯、大抵の病気には掛からないぜ”
「あら、有難う!健康が一番よね!」
”その通り!あと───ラースベルグ、だったかな”
今回のMVPである、黒馬にも。
”勇気、技量ともに一流中の一流である貴公と戦えた事、誇りに思う。
永く息災であられるように、『加護』を”
明らかな、ジト目。
しかし、一応は受け入れてくれたようだ。
本当に、スマン!
”───最後に、ロバート・サースティン Jr.”
「はひっ!」
”お前にも、掛けといてやるが。とにかくもっと、体を鍛えろ。
根本的な筋力が足りてない。技量以前の問題だ”
「・・・はい・・・」
”じゃあ、これにて解散!
ロバートは、お姫様をちゃんと王宮まで送り届けるように!
あと出来れば、表にいる軍人達に謝っといてくれ!
そして、俺は!
胸を張り、堂々と!
───秘書に叱られてくるッ!!」




