120話 新時代の古式遊戯 04
───11の時、父親が癌で他界して。
オレが『騎士』をやる事になった。
それまで、”へーー。騎士ってこんなのやるんだ”、と遠巻きに見てたものを。
今度はオレ自身が、やんなきゃならない羽目になってしまった。
鎧の手入れ、装着。
馬上の戦闘訓練。
それ以外にも、山の中を走らされる。
ダンベルを使った、筋力トレーニングもある。
さすがにこの2つは、鎧を脱いでだが。
爺ちゃんと大揉めに揉めた挙げ句、訓練は月1回だけになったけど。
「ああ、アレね。騎士って、大変なんだねえ」
その休日を申請する際の、上司の生暖かい笑みが、もう。
現代における『騎士』の立場を、如実に物語っている。
国民の皆様に同情的な優しさで見守られ、13年。
時折、式典行事に参列するだけで、実際はハリボテの『騎士』なのに。
それだけで、十分に役目を果たしてる筈だったのに。
───オレは、今。
輸送車の後部に、フル装備の板金鎧で身を包み、座っている。
『ザ・特殊部隊』という感じの軍人さん達に、囲まれながら!
「・・・あの・・・ドラゴン、て」
「犯人らしき者が、そう自称しています」
「・・・でも・・・王女様の誘拐なら・・・軍の人が」
「我々では、突入出来ません。詳しくは、現場で」
それっきり、会話が途切れてしまう。
暑い。
滅茶苦茶、暑い。
夏場にこんなの着て、平気な訳がない。
頭部鎧だけでも、外してしまいたいけれど。
爺ちゃん無しで、再度装着する自信が無い。
あと、軍人さん達の視線に、耐えられない。
2時間か、3時間か。
エンジン音と振動に、時間の感覚も狂ってしまった。
拷問のような『移動』が終わり。
ようやくオレは、車外へ出ることを許された。
これ・・・何処かの、森?
足元の草が、水滴を纏っている。
鎧の重量もあってか、踏んだ地面の感触が緩い。
「あれを見てください」
軍人さんの指が示した場所に、妙なものがあった。
真っ黒の、縦に長い楕円。
後ろにある筈の木が、遮られて見えない。
さりとて、『楕円』の中も、全く見えない。
「何・・・これ・・・」
呆然としている間に。
オレが乗ってた輸送車よりも大きなものから、馬が降りてきた。
青毛の、フリージアンホース。
名は、ラースベルグ。
オレの家が代々、騎士をやるように。
その騎乗馬もまた、名前を受け継ぐ。
こいつはオレが、正式な『騎士叙勲』を受けた時に生まれたやつだ。
手綱を曳かれ。
ゆっくりとオレの横まで歩んで来て、止まる。
友好的なフリージアン種だが、彼はかなり気難しい。
知らない人間に手綱を取らせるなんて、ない筈なんだが。
ぽん、と首の横を叩けば、ふん、と短い呼気が応える。
一応、落ち着いているのか。
多分。
「『あれ』の内部に、我々は侵入出来ません」
「・・・え?」
「言葉の通りです。理由や理屈はさて置き、事実として。
どうやっても、あの中に入れません」
「・・・・・・」
「犯人によると。この国で唯一の『騎士』のみを通す、とのことです」
「・・・ええぇ・・・」
「また、『全てが終われば、王女殿下は無事に返す』とも。
よって、犯人を必要以上に刺激せぬ為、あなたに発信機やカメラの類を付けません」
「・・・それって・・・1人で、指示無しで、行ってこいってこと?」
「そうです」
うわ!
オレ、捨て駒だよ!
その『ドラゴン』って名前の、犯罪者かテロリスト。
それも、単独じゃなく複数いるかもしれないのに。
軍からすれば、オレが死んでも王女が戻ってくるなら、それでいいと!
「あの、オレ・・・やっぱり、」
「とにかく、馬に乗ってください」
「いや、その、」
簡単に、『乗れ』って言うけどさ!
漫画やゲームじゃないんだよ!
騎士には、従者が居るもんなの!
一人で登場して『我は騎士なり』なんて、現実には無いから!
うちの家、騎士の位を貰ってるだけで、従者は居ません!
だから!
ちょっと、やめて!
マジ、やめて!
オレをラースベルグに乗せないでっ!!
板金鎧で銃弾は、防げないからっ!!
こんなの、ただ重いだけの、格好の的なんだよ!!
「中に入ったら、可能な限り犯人と交渉してください」
そりゃ、するよ!
自分の命が懸かってるからさ!
「では───御武運を」
そんな、『もう帰って来ない人』に向ける目をするな!!
嫌だよおおぉ!!!
誰か、オレと代わってよおおぉぉ!!!




