表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/738

120話 新時代の古式遊戯 04



───11の時、父親が癌で他界して。


オレが『騎士』をやる事になった。


それまで、”へーー。騎士ってこんなのやるんだ”、と遠巻きに見てたものを。

今度はオレ自身が、やんなきゃならない羽目になってしまった。



鎧の手入れ、装着。

馬上の戦闘訓練。


それ以外にも、山の中を走らされる。

ダンベルを使った、筋力トレーニングもある。

さすがにこの2つは、鎧を脱いでだが。



爺ちゃんと大揉めに揉めた挙げ句、訓練は月1回だけになったけど。


「ああ、アレね。騎士って、大変なんだねえ」


その休日を申請する際の、上司の生暖かい笑みが、もう。

現代における『騎士』の立場を、如実に物語っている。



国民の皆様に同情的な優しさで見守られ、13年。

時折、式典行事に参列するだけで、実際はハリボテの『騎士』なのに。

それだけで、十分に役目を果たしてる筈だったのに。




───オレは、今。



輸送車の後部に、フル装備の板金鎧(プレートメイル)で身を包み、座っている。

『ザ・特殊部隊』という感じの軍人さん達に、囲まれながら!




「・・・あの・・・ドラゴン、て」


「犯人らしき者が、そう自称しています」


「・・・でも・・・王女様の誘拐なら・・・軍の人が」


「我々では、突入出来ません。詳しくは、現場で」



それっきり、会話が途切れてしまう。



暑い。

滅茶苦茶、暑い。

夏場にこんなの着て、平気な訳がない。


頭部鎧(ヘルム)だけでも、外してしまいたいけれど。

爺ちゃん無しで、再度装着する自信が無い。

あと、軍人さん達の視線に、耐えられない。




2時間か、3時間か。

エンジン音と振動に、時間の感覚も狂ってしまった。


拷問のような『移動』が終わり。

ようやくオレは、車外へ出ることを許された。



これ・・・何処かの、森?


足元の草が、水滴を纏っている。

鎧の重量もあってか、踏んだ地面(つち)の感触が(ゆる)い。



「あれを見てください」



軍人さんの指が示した場所に、妙なものがあった。


真っ黒の、縦に長い楕円。

後ろにある筈の木が、遮られて見えない。

さりとて、『楕円』の中も、全く見えない。



「何・・・これ・・・」



呆然としている間に。

オレが乗ってた輸送車よりも大きなものから、馬が降りてきた。



青毛(くろ)の、フリージアンホース。

名は、ラースベルグ。


オレの家が代々、騎士をやるように。

その騎乗馬もまた、名前を受け継ぐ。


こいつはオレが、正式な『騎士叙勲』を受けた時に生まれたやつだ。



手綱を()かれ。

ゆっくりとオレの横まで歩んで来て、止まる。


友好的なフリージアン種だが、彼はかなり気難しい。

知らない人間に手綱を取らせるなんて、ない筈なんだが。


ぽん、と首の横を叩けば、ふん、と短い呼気が応える。


一応、落ち着いているのか。

多分。




「『あれ』の内部に、我々は侵入出来ません」


「・・・え?」


「言葉の通りです。理由や理屈はさて置き、事実として。

どうやっても、あの中に入れません」


「・・・・・・」


「犯人によると。この国で唯一の『騎士』のみを通す、とのことです」


「・・・ええぇ・・・」


「また、『全てが終われば、王女殿下は無事に返す』とも。

よって、犯人を必要以上に刺激せぬ為、あなたに発信機やカメラの類を付けません」


「・・・それって・・・1人で、指示無しで、行ってこいってこと?」


「そうです」




うわ!

オレ、捨て駒だよ!


その『ドラゴン』って名前の、犯罪者かテロリスト。

それも、単独じゃなく複数いるかもしれないのに。


軍からすれば、オレが死んでも王女が戻ってくるなら、それでいいと!




「あの、オレ・・・やっぱり、」


「とにかく、馬に乗ってください」


「いや、その、」




簡単に、『乗れ』って言うけどさ!

漫画やゲームじゃないんだよ!


騎士には、従者が居るもんなの!

一人で登場して『我は騎士なり』なんて、現実には無いから!


うちの家、騎士の位を貰ってるだけで、従者は居ません!

だから!


ちょっと、やめて!

マジ、やめて!


オレをラースベルグに乗せないでっ!!

板金鎧(プレートメイル)で銃弾は、防げないからっ!!

こんなの、ただ重いだけの、格好の(まと)なんだよ!!




「中に入ったら、可能な限り犯人と交渉してください」




そりゃ、するよ!

自分の命が懸かってるからさ!




「では───御武運を」





そんな、『もう帰って来ない人』に向ける目をするな!!


嫌だよおおぉ!!!


誰か、オレと代わってよおおぉぉ!!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ