117話 新時代の古式遊戯 01
【新時代の古式遊戯】
『龍と幻想 〜中世における民間伝承』。
ローマ帝国の衰退から滅亡までの、所謂暗黒時代。
ドラゴン、竜、そして龍は、どのようにして人間と関わり、記録されたか。
書物だけでなく、口伝、戯曲や詩、舞踏におけるそれらは、いかに表現されたのか。
これは。
西洋のみならず、各地における『竜種』の痕跡を纏め上げた、素晴らしい書籍であり。
───当然、俺の愛読書である。
日常的な読書用に、1冊。
その予備に、1冊。
保存用に、1冊。
そんな『龍伝ファン』の俺が何故、図書館まで来て『龍伝』を探すのか、と言うと。
(・・・やっぱり、駄目か・・・)
ハードカバーの裏表紙と、もう1枚を捲り、溜息。
そこに記されている文字が、『第六版』だったからだ。
俺が長きに渡って探し続けているのは、『初版』。
その初版も正確に言えば、『復刻版の初版』だ。
原本自体は、とっくの昔に失われている。
そして、復刻した出版社も、世界大戦の折に焼失。
世界中の古本屋と図書館を回っているが、見つかるのは五版以降ばかり。
三版を見たのは、11年前か。
(・・・これはもう、現存していないのかもな・・・)
初版にのみ、あって。
第二版からは大幅にカットされた、という部分。
おそらくは、『宗教的に都合が悪かった』のだろうが。
俺としては、ますます興味を駆り立てられるわけで。
静かに『龍伝』を棚に差し戻して、帰ろうとした時。
こちらを見つめる、女性の瞳に気付いた。
(・・・ん?)
視線が合っても、逸らされること無く。
それどころか、そのままこちらへ向かって来る。
(・・・よしっ!今日の俺は、ツイてる・・・間違い無い!)
手を伸ばせば、抱き合えるほどの距離。
ふわり、と香る、エタニティ。
声を潜めて。
子供のような無邪気さで。
しかし、彼女の言葉は、完全に予想から外れていた。
「ねぇ───『竜』って、悪魔なの?」




