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111話 合法的な魔法使い 02



”人間は、魔法を使えない”。



これは、俺を含めた悪魔全体の見解である。


知性が、とか、寿命が、とか、そういう些細な事ではなく。

根本的な問題として、人間は『使えるだけの土台を持っていない』。



『魔法を使える人間』は、『そう見える』だけ。

実際には、召喚で契約した悪魔からの借り物だ。

当然、借りている魔法しか使えないし、契約によっては回数制限さえある。


その状態を指して、「魔法を使えている」とは言わない。




人間が単体で、本当に魔法を使おうとするなら、何が必要か。



まず第一段階として、『魔素を魔力へと変換すること』。


体内にある無指向性の魔素を、魔法の動力源となる魔力に変えなければならない。

これは悪魔であれば、最初から『魔力線(かいろ)』を持っているので必要無いのだが。

人間の場合は、どうにかして魔力線(かいろ)を作り上げないと、一歩も先に進めない。


その難易度を例えるなら。

ベンチプレスで160キロを持ち上げる、だ。


非常に厳しいのだろうが、無理ではない。

トレーニングを継続すれば、いつかは出来る・・・かもしれないレベル。


だから、出来る奴は出来るし、出来ない奴は生涯出来ない。

ただそれだけだ。



そして第二段階は、『魔力を外側へ出力すること』。


せっかくの魔力も、体の中でグルグル回しているだけでは魔法にならない。

例え自分の肉体(内部)を強化する魔法であっても、一度は外に出して発現させて。

それから内側へ適用する必要がある。

この『外へ出す』というのも、悪魔は生まれた瞬間から出来る。

しかし人間にとっての内側と外側は、0と1ほどの絶望的な『差』らしい。

物理的手段以外で、自分の外にあるモノをどうにかするのが、魔法。

その概念に対して、本能の部分が相当に拒絶するようだ。


それでも、難易度自体は一段階目とさほど変わらない。

100メートルを9秒台で走る、くらいだ。


これも、現実に9秒台で走れる者がいる以上、不可能な事ではない。

ベンチプレスと同じで、出来る奴は出来る。



この第二段階終了までにかかる時間は、およそ40年程度だ。

才能のある奴で30年、天才クラスでも20年くらいか。



2つの壁を苦労して乗り越えて。

もう若くはない自分の肉体に、焦りと苛立ちを憶えながら。


やっと辿り着いた第三段階は、『体外の魔素を取り込むこと』。


魔法を使えば魔力を消費し、その魔力を補填する為に、魔素が必要。

自然回復を待ってもいいが、さっさと自分の外から取り込むほうが効率的だ。

これもまた、悪魔であれば当然のように出来る事なのだが。


人間の肉体には、その為の『器官』が備わっていない。


自然界の魔素を凝縮することも。

それを直接吸収することも、出来ない。


ここをどうやって、乗り越えるか。


取り得る手段は、幾つかあるだろうが。

その難易度はどれも、



8階建てのビルを横から素手で押して、1メートル動かす、だ。



魔法の為に人生を費やしてきた人間は。

ここへ至って、ようやく悟る。




───『魔法』は、人間が使えるように作られてはいない、と。




そんな彼等とて、指先に明かりを灯すくらいは出来るが。


その程度を悪魔(おれたち)は、「魔法が使える」とは言わない。

明かりの代償に丸一日寝込む者を、「魔法使い」とは呼ばない。




人間は。

「魔法使いになれない」のだ。




───普通に、生きているだけでは。



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