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09話 終炎を、手に(その1)

お姉さんも、人間界で暮らしています。


【終炎を、手に】



「ぶっ・・・!あははははっ!!

 ちょ・・・ちょっと、これ見てよ!ランツェイラっ!!」


 液晶画面の前で笑い転げる、赤い悪魔。

 その背後から覗き込む、白き天使。


「・・・い・・・イタリアっ!!『イタリア系・悪魔』って!!

 ぶあっははははははは!!!」


「美味しいパスタと、カプチーノの国ですね」


「あ・・・あんた、最高だよっ!

 宇宙開闢(かいびゃく)以来、『イタリア系・悪魔』って字名(あざな)付いた奴、

お前以外いないだろっ!?」


「────ああ、ありがとよ。

 そこまで爆笑してくれたらもう、情け無いを通り越して清々しい・・・」


 ひゃはははは!、と椅子ごとひっくり返らんばかりに笑い続ける姉から視線を逸らし。

 仏頂面のヴァレストは、乱暴にコーヒーカップを置いた。


「なんで、そういうのが『地上界』で見れるんだよ?

 そもそも、こんなウェールズの山ん中にどうやってネット回線入れてんだ?」


「あははは!!・・・あーーーおかしいっ!!」


「聞けよ」


「・・・あー、回線ね。ありゃ(ふもと)までしか来てなかったからさー。

 その業者に頼んで、ここまでケーブル延長させたよ」


「脅したんだな?」


「馬ぁ鹿。『真っ当な』色仕掛けだよ」


「・・・泣いてたろ?」


「ああん!?脊椎ぶっこ抜くよ、お前!!」


「引き篭ってそういうゴシップ記事ばかり見てるとか、どんだけ怠惰な生活してんだ?

 真面目に『仕事』しろよ、悪魔として」


「ふふーん。お前に言われたくないねー」


「・・・?」



 予想外。

 さらりと受け流しつつ、にんまりと嗜虐的な笑みを浮かべる、姉。

 その様に、激しく動揺するヴァレスト。



「・・・なんだよ?」


「ふふふ」


「なんだってんだよ??」


「これ、ゴシップじゃなくてさーー。正 式 な 『名士目録』!」


「────なにぃっ!?

 いや!!んなわけあるかよ!!普通、目録に字名(あざな)は載らねぇだろっ!?」


「だって、書いてあるもんねーー。ねーー?ランツェイラ?」


「はい。あと、この『経歴タブ』のところにあるのは」


「待て!!見るな!!見るんじゃないっ!!!」






「────分かったか、愚かなる弟!


 ネット時代の現在(いま)、田舎も都会もウェールズもロンドンもない!

 あと、あたしがいないとお前は、すぐ死ぬ!!」


「最後は余計だ。予言みたいに言わないでくれ」


「黙れっ!

 このあたしがっ!正午ぴったりにっ!

 各国主要都市のライブカメラ映像を見るのを、趣味にしてなかったらっ!」


「ああ、分かった!分かったよ、もう!

 姉貴のおかげで助かった!すまん、本当に!!」


「・・・半ベソかいた自分の弟が『どアップ』で映ってるとか、もう。

 心臓に悪いったらありゃしないよ・・・」



 はーー、と溜息をつき。

 赤髪の悪魔は、豹柄のソファーにだらしなく座る。


 灰色の猫が、待ってましたとばかりにその膝へ飛び乗った。



お姉さんは小柄なせいか、妹と間違われます。

でも、本当に妹もいますよ。

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