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106話 No music, no life 01


【No music, no life】



午前10時。

ミュンヘン旧市街、ゼンドリンガー通り。




ブティック前の『車止めブロック』に腰掛けて、キルヒアは大きく欠伸した。



昨夜は、羽目を外し過ぎた・・・というか、飲み過ぎた。

身体(からだ)が、重い。

吐くほどではないが、脈拍に合わせて頭痛が暴れている。

鎮痛剤の効果が、全く感じられない。



・・・出来れば、夕方まで寝ていたかった。



事実、つい先程まではベッドに寝転がっていたのだ。

それなのに、呼び出しやがった馬鹿がいる。


いや、あいつも馬鹿だが、アタシも馬鹿だ。

断りゃいいのに、なんで「じゃあ、行く」なんて言っちまったのか。



・・・思考能力が、格段に落ちている。

・・・そのくせ、いつもは気にしないような事が、やけに気になる。



マリエン広場が近くにあるせいで、通りには観光客の姿が多い。

連中はガヤガヤとうるさいし、とにかく立ち止まっては、写真を撮りたがる。

自分のような『緑の髪に紫メッシュ』『顔面ピアスだらけ』ときたらもう、格好のネタだ。


こっそり撮影してるつもりだろうが、バレバレなんだよ、お前ら。

ロンドンのパンクスならカメラ向けりゃ、ポーズくらいとってくれるだろうけどさ。

今のアタシにゃ、そんな気力はねーよ。



・・・こりゃ駄目だ。


心の中の自分さえ、声に覇気が無い。

早く帰って、もう一度寝たい・・・。




「ようっ!久しぶり、キルヒア!」


「・・・何が『ようっ!』だ、○無し野郎。

呼び付けといて遅れるたぁ、手前ぇ、どこの石油王だ」


「───どうしたよ?何か、いつもよりキレが悪ぃな?」


「飲み過ぎたんだよ。日差し浴びてるだけで、脳味噌が腐りそうなんだよ」


「そりゃあ、お気の毒に───だが、いいモン持って来てやったからさ!

これ一発でバッチリ、キマるぜ!」


「警察呼ぼうか?」


「いやいや!そっちじゃねぇよ!音楽だ、音楽!」


「・・・はあ?」


「まだビッグネームじゃない連中なんだけどよ。スッゲエ『当たり』なんだわ」


「・・・あのさぁ。アタシ、オールジャンル聴くけど、許容範囲はかなり狭いよ?」


「知ってる」


「・・・誰かのオススメとか、褒めたためしが無いんだけど?」


「知ってる。まあ、とにかく聴いてみろって」」


「・・・気に入らなくても、文句言うなよ・・・」




押し問答する暇があったら、さっさと終わらせてベッドに戻りたい。

仕方無く、イヤフォンを受け取る。




「『ジャケ絵』見せて」


「ほいよ───これな」


「・・・・・・」




アタシの持論。

『音楽の良し悪しはほぼ、ジャケ絵で決まる』。


”オシャレPOPを気取った、なんちゃってアメコミ調”の絵だったら、速攻で帰ろう。

そう身構えていたのだが。



へぇ・・・イイ感じじゃん。


これ描いたの、誰なんだろう?

あとで調べてみようかな。



・・・いやいやいや!


『音楽は、中身』だ!

耳が納得しなきゃ、耳が!




「・・・まあ、聴いてみるけど・・・」



「何コレっ!?凄いんだけど!?スンゴイんだけどっ!?」


「だろ?だろぉ?───いやあ、お前なら分かってくれると思ってたぜ!」


「こんなの、聴いたことないよっ!これ、何処(どこ)でDL販売してんの!?」


「おう!サイトのアドレス送るわ!」


「ええと、何てバンドだっけ?」


「『MAXWELL(マクスウェル) Zwei(ツヴァイ)』だ」


「ヤバいよ!『マクツヴァ』、ヤバい!」


「ああ。『マクツヴァ』、ヤベぇよな!しかも、今夜ライブがあるんだぜ!」


「う”あ”あ”あ”ぁ!!もっと早くに、知ってたらあぁ!!」


「これ見ろ───チケット2枚、おさえてる!しかも、最前列だ!

一緒に行こうぜ、キルヒア!」


「マジかよっ!?お前、どこの石油王だよっ!?」



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